第二章 認知
振り向いた先にいたのは、
「……ぁ、ぅあ」
けれど、様子がおかしい。
「……希?」
「……ぁぁぁ」
希の顔を見た瞬間、俺は息を
今や彼女の瞳は
それは、怪異としておよそ最悪に近いもの。
「っ!?
「アアアアアアアアアッッッ!」
希が叫び声を上げながら腕を振るってきた。
「やばっ……!?」
「
同時、それらは希の元へと
「わ、悪い!」
「いいえ、ですが……」
望が視線を向ける先、希は己を縛り上げる影をまるで切り紙の様に
あの黒影に触れても何も起こらぬどころか、造作も無く振り切っている様を見るに、白の魔法で打ち消しているのだろう。
「生成りになっても魔法使えるのかよ、流石だな」
せいぜい、弱気にならない様に軽口を叩いてみるが、状況が好転する事など無い。
「どうして……何で希が!」
望が叫ぶが、獣の様に
「やるしかないか……!」
正直、何もかもが不明な状況下では使いたくないが、そんな事を言っている時ではない。
下手をすれば、こちらがやられる。
更には、
「
あと何分
幻想種には
だから、俺は半ば
「望! 希を無力化させる方法はあるか!?」
「あ、ありますけど……」
「時間なら俺が稼ぐ! 頼む、果琳が来る前に! 希を死なせたくないんだ!」
けぶる
「……わかりました」
時間にすれば一秒も無かったであろうそれは、けれど気持ちは伝わって。
直後、望は一歩後退し、その場に座り込む。
「二十秒の間、僕の命を貴己さんに預けます」
「二十秒だな。……余裕!」
俺は己を
たった二十秒、されど二十秒の防衛戦。
守護対象を背に、一歩も引くことは許されない。
相手は、生成りと化した白の魔法使い。
彼女は
「アアアアアアアアアッッ!」
「……来い!」
叫び、俺は『 』から木刀を取り寄せ、握った。
□ □ □
Interlude
それは
そして、それは最大の布石だった。
「ガアアアアアアッッ!」
そら恐ろしいまでに見事な弧を描き、
ブオン、と空が唸る程に剛速のそれは、昨日の手合わせの時より明らかに
「ぐっ!」
咄嗟に
衝撃を抑え切れず、
「だぁっ!」
けれど
今ので打ち合いは四合目。
対峙してから十秒。
貴己は望を守るため、全力で食い下がっていた。
貴己の背後にいる望は禅を組み、九字を唱え、印を組んでいく。
「
それは陰陽道に
それら一つ一つに
視覚化されるにまで至った高密度の外魔力は、必然希の目に映り、異変として認知された。
「アアアアアアッ!」
ともすれば、獲物へ喰らいつかんとする
貴己が立ち塞がり、行く手を阻むが、半鬼と化している希の、白魔法を
見た目からは及びもつかない破壊力を秘めたそれは、貴己の身体に等しく衝撃を与え、木刀もろとも望の後方へと吹き飛ばす。
それでも意識はあった。
それは怪我の功名、不幸中の幸い。
白魔法が希の暴走状態により、貴己の耐性を超えて作用したのだ。
宙にいる貴己には、世界が
……二度目なら、動ける! 動いてやる!
二度地面を跳ねたところで、三度目は意地と気合いで踏んじばり、体勢を立て直す。
顔を上げ、前を見据えた貴己と希の
「
望は今に呪を編みあげようとしている。
そして、希が走り出したのと、貴己が走り出したのは同時だった。
互いの距離が一瞬にして詰まっていき、三メートルを切った時、望が目を見開く。
立ち上がり、封魔の呪を叫ぼうとした望の目の前には、貴己がいた。
丁度、希と望の間に立つような形となって、割り込んだ瞬間だった。
……なんだ、これ。
繰り返すが、貴己は、希と望の間に立っていた。
割り込んだ瞬間の、
確かに二足を地につけていた。
そして、それをはっきりと認識している。
希の白魔法を受けたときに似ているが、断じて違うと言い切れる。
厳格にはそうでは無いが。
……時が止まっている様な。
そうと認識した瞬間、貴己はほぼ無意識に動いていた。
望へと伸ばされた希の右腕を引き、重心を前方へと傾ける。
前方へと傾けつつ、その左腰に手を当て、左へ。
更に右足で希の足を逆方向へ払ったなら、
「ガッ! アアアアアアッ!」
斜め右へ、まるで
ひっくり返った所に全体重と膂力で荷重を掛け、背中から押さえ付ける。
「ぬっ、ぐふっ! ぐがっ! 望、早く!」
けれどやはり生成りと化している以上、完全に押さえつけることは難しい。
顔の側面や腹部に激しい肘鉄を食らいながら、貴己は望へ叫ぶ。
何が起こったのかわからず、半ば
「
望が叫ぶと、黒の紗幕が希を覆った。
それと同時に望と貴己は
だが、数秒の後、紗幕が晴れても一向に変化は訪れない。
再び幽鬼のように、ゆらりと立ち上がった希は未だ敵意を放ち続けていた。
「な……なんで!? 何で効かないの!?」
望が悲痛な声を上げるが、それは何の一助にもなりはしない。
「っ……!」
再びの打ち合いになると見て、貴己が木刀の
「「!?」」
「希っ!」
即座に望が駆け寄り、抱き上げて様子を見れば、きちんと息はある。
ただ意識を失っただけの様だった。
否、それだけでは無い。
先ほどまで
「魔法が遅れて効いた、って訳じゃなさそうだな……」
「はい。そんな
望が何かを告げようとした時、修練場の扉が激しく開かれた。
「「っ!?」」
貴己と望は振り向きざま臨戦体勢に入る。
どん、と限界まで開けた引き戸に寄りかかっていたのは、
「はぁっ、はぁっ……」
肩を上下させ、息も絶え絶えな状態の果琳だった。
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