第24話
翌日、ヴィートは休日とし午前中は体を休め、午後は遠征で消費した食物などを補充して過ごした。
そしてさらにその翌日、冒険者ギルドから昇格試験を行うと言われていた日になった。朝食をとり、すぐに冒険者ギルドに向かう。
「おはよう。レア。試験受けにきたぞー。」
「おはようございます。それではまず奥の部屋にどうぞ。」
案内された部屋は「マスター室」と看板が掛けられている。普段は立ち入ることのできない奥の部屋で、内装が豪奢だ。応接椅子に体格の良い老人が腕を組んで座っている。
「マスター、銀級昇格試験を受けにきた冒険者、ヴィートをお連れしました。」
「うむ、ご苦労。後は任せたまえ。私は冒険者ギルドルート王国本部ギルドマスターのゲオルギオスだ。よろしく。」
「あ、試験を受けるヴィートです。よろしくお願いします。」
「よしよし、それじゃ試験を始めるぞ。一番最初は面談だ。簡単な質問をさせてもらう。その後戦闘技術を確かめさせてもらおう。ま、座ってくれ。」
レアが部屋から退出し、ヴィートはソファに座る。なかなかすわり心地が良い。
「さて、面談とは言うがたいして聞くことは無い。思想や理念を統率するつもりはないしな。事前に仕事ぶりや素行は調査しているからこの試験を受ける時点でほぼ合格と言って差し支えない。」
「それじゃこの面談って何の意味が?」
「俺が昇格する新人の顔を見たいだけだ。」
「ふーん。俺はお眼鏡にかないましたかね?」
「悪い奴ではなさそうだな。ただ、ルイスの町にいた時に比べて急激に強くなっているな?」
「それは、まぁ冒険者の秘密って奴です。」
「……“魔神教”という邪教があってな。魔神教の儀式である契約の儀を行うと普通の人間が急激に強くなるのだ。契約者は死後の魂を魔神に差し出す代わりに現世での力を得る、という訳だ。その契約者の疑いがお前にかかっている。」
「ちょ、そんな事してませんよ!」
「体のどこかに契約者の証である焼印があるはずだ。服を脱いで証明してもらおうか?」
(う、薄い本みたいな展開……嬉しくないっ!)
何ともいえない渋い表情をしているとゲオルギオスが破顔する。
「はっはっは!すまんな。冗談だ。大体魔神の契約者は傍若無人に振る舞うし、お前の水浴びなんかを偵察員が監視していたからな。今までの職員からの報告には契約者だと匂わせる物は無かった。」
「びっくりさせないで下さいよ。っていうか水浴びを監視って。」
「うむ。結果が白だった以上、悪かったとしか言えんが、魔神の契約者の危機は早期に対処せねばならないからな。必要な処置だったのだ。」
「はぁ、まあ疑いが解けたのなら良いんですが。」
「というかステータスカードを見れば一目瞭然だからな。念のため見せてくれるか?」
「えっ、ステータスカード?見せないと駄目ですか?」
「それくらいは見せてもらえないと困るな。」
「まぁ身分証明で見せたりしますからいいと言えばいいんですけど……じゃあ、はい。」
そう言ってステータスカードを手渡す。
ヴィート 聖人 15歳 男
体力 1250/1250
魔力 212500/212500
筋力 790
器用さ 750
頑丈さ 550
速さ 620
知能 3460
精神 4170
幸運 1110
【スキル】
〈宿命通〉〈瞑想〉〈神代魔法〉〈生活魔法〉〈無属性魔法〉〈戦闘剣術〉〈拳闘〉〈見切り〉〈ラーニング〉〈火属性魔法〉
【契約】
〈父神との契約〉
「こ、これは……。」
「あ、またステータス上がってる。」
経験豊富なギルドマスターであるゲオルギオスも思わず絶句する内容だ。前回ステータスカードを確認した時に比べてまた上昇している。きちんと剣の修練を行ったことが大きかったのだろう。
新しく得たスキル、〈戦闘剣術〉、〈拳闘〉、〈見切り〉は戦闘剣術を修めたために増えたスキルだ。スキルにまで昇華された技術は魔力により補正を受け、効果が上昇する。
〈ラーニング〉とは一度イドリスの放った〈ファイアボール〉の魔力を模倣して手に入れたスキルだ。神経を研ぎ澄まして観察した魔法を模倣し、習得することが出来る。〈火属性魔法〉はその際に手に入れたスキルだ。魔力を分離させ火属性の魔力を抽出することで火にまつわる現象を思いのままに起こすことが出来る。
「せ、聖人!それに父神との契約とは!」
「あー、誤魔化せませんよね。」
「いや、その、なんというか……。」
「ルイスで急に強くなったのは父神との契約が理由です。これは内密にしてほしいんです。」
「……ああ、もちろんだ。ギルドでの守秘義務に該当するし、父神との契約者である聖人がいるとなると世界のバランスに影響を与えるだろう。」
「そ、そんなに?」
「ああ。父神の復活を掲げた父神教が勢いづき、お前を確保しようと武力行使するだろう。もともと父神教は他教に対して手厳しい。その……父神と話したりは出来るのか?なにか言っていたか?」
「疑念はもっともですが、大丈夫ですよ。もう人間を滅ぼす意志はないそうです。」
「はぁ、少しほっとしたぞ。父神教過激派は父神の意志に従って人間を滅ぼそうとしているからな。助かるのは父神教徒だけだとさ。都合の良い事だ。」
「今は力の大半を失ってるそうですから。やろうと思ってもできないんじゃないかな。」
「なるほど。英雄神話か。それで今後お前はどうするつもりなんだ?」
「どう、って?」
「聖人の力をどのように使うんだ?おそらくどの国でも重用されるだろうし、どの宗教でも上位の聖職者になれるだろう。」
「冒険者だから、冒険しますよ。どこかの国やら宗教やらに肩入れはしません。」
「急に金級や魔金級に上げてやる事は出来んが、いいのか?」
「はい。位階を上げる事よりも世界中を見て回る事の方が俺にとって大事なんです。」
「そうか。それなら、無理にステータスカードを見た俺が言うのもなんだが、ステータスカードは隠した方が無難だろうな。宗教国家であるウロス法国は避けた方がいいだろう。おそらく入国の際にトラブルになる。それから、鑑定系スキルの一部はステータスを見ることが出来るからな。滅多にいないが気を付けた方がいい。」
「ありがとございます。」
「まったく……魔神教の話をして驚かしてやろうと思っていたが、こっちが驚かされたぞ。一本取られた。」
「ははは。」
「よし、小難しい話は終わりにして戦闘試験といこうか。」
「誰が相手なんです?」
「一応金級冒険者を手配している。しかしステータスを見るに相手にならんだろうな。まぁほどほどにしてやってくれ。」
「了解!」
ギルドの訓練所に向かう。訓練所で待っていたのは金級冒険者の男だ。2,30代だろう、黒く長い髪を後ろで束ねている。素早さを売りにしているのか結構軽装だ。人懐っこい笑顔を浮かべている。
「待たせたな、“餓狼”。」
「おお、ギルマス!待ったぞ。」
「ヴィート、コイツがパーティ“餓狼の牙”のリーダー“餓狼のザビット”だ。ザビット、コイツが今回銀級昇格試験を受ける新人の“怪力のヴィート”。」
「ヴィートです。よろしく。」
「ふっふっふ。俺が5人パーティのうち3人が金級である超1流パーティ、“餓狼の牙”リーダーのザビットだ!よろしく!」
「(こんな上機嫌なんだが、多分ボコボコにやられるんだろうな。)じゃあ早速始めてもらおう。得物はこの木剣で構わんか?」
「ああ!もちろん。」
「俺も大丈夫です。」
「よし。両者位置について。」
「悪いが手加減しないぜ!」
「俺も本気で行くよ。」
「始め!」
身体強化を軽く下半身にかけ、接近する。素早くザビットの腕を取りギチギチに固める。“肩固め”だ。
「痛ったい!待て待て待て待て!!ストップ!止めて!」
「ん?もう降参か?」
「いや、降参じゃないけど、ちょっと待って!」
「降参じゃないなら駄目。」
「痛い痛い!折れる~~!!」
「(ボコボコまでも行かなかったか……。)……そこまで。勝者ヴィート!」
ゲオルギオスの判定が行われて関節技が解かれる。
「マジか!お前!真面目か!」
「えぇ……本気で行くって言ったじゃん……。」
「いや、“えぇ……”じゃないよ!引いたわ!なんだあの技!一瞬で肩持ってかれたわ!」
「いや、詳細は明かせないけど。」
「真面目か!」
「はいはい、そこまでにしておけ。新人とは言え二つ名付きで、今王都で1番注目されている冒険者だ。強い技の1つや2つは持っているだろうよ。」
「だって……俺何にもしてない……。」
「だってじゃない。聞き分けろ。」
「くそぅ!新人冒険者に強さを見せつけて“ザビットさん凄い!尊敬します!”って言われるはずがどうしてこうなる!」
「ええーと昇格試験は?」
「ああ銀級昇格は間違いなく保障しよう。受付で手続きしてくれ。」
「ヴィート!お前、次は負けないぞ!またな!」
「ははは。それじゃまた。」
訓練所から受付へと回る。レアが手続きをして待ってくれていた。
「あ、ヴィートさん。手続きは済んでますよ。銅級冒険者証をこちらに。」
「はい。」
「はい、確かに。それではこちらが銀級冒険者証です。」
差し出されたのは銀に輝く冒険者証。銅級まではその辺にいるが銀級は数が少ない。大きめのコイン程度の大きさなのだが何とも重い。その重さはきっと銅級でくすぶって、冒険者を辞めていった者達の想いがそう感じさせるのだろう。
「はぁーとうとう銀級か。」
「ええ、おめでとうございます。」
「銀級って何かあるの?その特典とか、義務とか。」
「特典は銀級以上の限定依頼を受注出来たり、許可が必要な危険な区域に赴く際、許可が下りやすくなります。義務は指名依頼が入る事があります。ギルドにおいて、本当に稀にではありますが、該当の冒険者しか解決できない重要な問題が発生した場合、強制的に依頼をする場合があります。」
「なるほど。ドラゴンが出たりしたとき、狩れる冒険者が1人しかいなかったらその冒険者に依頼が入る、って事ね。」
「そういう事です。」
「それじゃ今日の所は帰るわ。今晩は祝杯を上げる事にするよ。明日また来る。」
「はい。楽しんでください。」
時刻は大体昼。ギルドを後にしたヴィートは、いつもの煮込み屋に昼食を取りに行った。
「おいーす。いつものー。」
「いらっしゃい。すぐ持ってくるわ。」
そうして変わらない味の煮込みを食べていると、ひと段落したのかマリが話しかけてくる。
「あ、ギルド証!銀になってる!」
「ふふーん。お気づきですかな?」
「おめでとうヴィート。私も鼻が高いわ。」
「何でお前が鼻高々なの?」
「そりゃ、毎日食べに来てるんだもの。ヴィートの身体の3分の1はうちの煮込みよ。」
「いや、だからって煮込みのおかげじゃない気がするが……。」
「私がそう思うのは自由でしょ?」
「まったく押しが強いんだから。そういえば変わった話って知らない?」
「変わった話?急にどうしたの?」
「冬が終わるまでは王都にいることにしただろ?来春まで食べていけるだけは稼いだから、何か面白い話でもないかと思って。」
ヴィートの計画としては冬の間王都に缶詰なのだから、王都での異能探しにあてるつもりだ。
「うーん。あ、この間お客さんから聞いた話なんだけど、王都に初めて来た冒険者がね、王都がどんな所か土地勘を得ようと思って、見て回ったんだって。それでね、北区、中央区、南区と順調に見て回って夕方になったころ、西区を見に行ったんだって。」
「そう言えば西区って馴染みが無いな。」
西区には教会や礼拝堂、神殿といった宗教施設や王立図書館なんかが集まった静かな地区だ。宗教にも勉強にも熱心でないヴィートには馴染みがなくて当然である。
「それで。建物の間を通っていろんなところを歩いていたら、気が付けば周りには誰もいなかったんだって。静かすぎておかしいなーって思いながら歩き続けてたらずっと同じ所を回ってるの。十字路に閉じ込められたみたいにどんなに歩いても気が付いたら元の十字路に戻ってきてしまう。怖くなって思わず駈け出して、息が切れて走れなくなってきた頃、ようやく人を見つけて安心して話しかけたんだって。“すみません。”って。そしたらその人がゆっくりと振り返ると……なんとその人には顔が無かったの。その冒険者はそこで気を失ってしまって、翌日西区で見つかったの。……夕方って“逢魔が時”って言うでしょ。だから彼が見たのは本物の幽霊じゃないか、って話。どう?怖かった?」
「西区に現れる顔のない幽霊、か。面白そうだな。」
「む、あんまり怖がってないわね。」
「うーん。幽霊ったってねぇ。魔物のゴーストとどう違うの?切ったら倒せるんじゃない?」
「え。……ゴーストと幽霊がどう違うかって言われるとちょっと、よくわかんないかな。」
「だろ?まぁ後でちょっと行ってみるよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます