メリット≒デメリット

カゲトモ

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『あんたはいくつになったらお嫁さんを連れて来るのかしらねぇ』

 久しぶりに電話をした母親から言われた言葉をぼんやりと思い出した。グラスを磨く手は止めない。でもグルリとその言葉は回った。

 なんてことない、貰い過ぎたお中元の中身を段ボールに詰めて送られて来たから電話を掛けただけだ。説教って程じゃないけど、多少呆れたような声ではあったと思う。

 別に俺だって結婚したくない訳じゃないさ。ただ出来なかったってだけ。“しない”と“出来ない”じゃ意味合いが全然違うでしょ? ただそのタイミングが来なかったんだよ。

 でもふと思う。どうして出来なかったのかなって。

小さい頃はただ大人になったら結婚して子供を育てるのが当たり前だと思っていたし、自然とにそうなるものだと思っていた。だからかな“大人になれば”とか“自然に”とか思っていたから。自分じゃない“誰か”がやってくれると思っていたからかもしれない。

「結婚っていいものよ」

「ミサキさんを見ているとそう思うんですけれどね」

 柔らかいゴールドの指輪が指に良く馴染むミサキさんは皺を深く刻みながら微笑んだ。

「お仕事をしていると色んな人を見るでしょう? だから結婚が嫌になった?」

 うーん、それはない、とも言えないかな。仕事が生活のメインになっているし、恋人がいないから結婚出来ないってのもあるけど、それより以前に恋人を作るのを面倒だと思っている自分もいるし。

「まぁ確かに面倒ではあるわね。だって結局は他人だもの」

 人生を添い遂げる旦那でも結局は他人、か。人生のうんと先輩であるミサキさんが言うと説得力がある気がする。

「彼は私のことを完全には理解できないし、私も彼のことを完全に理解できなかったもの。双子でも相容れない事があるんだから、もともと他人だった二人が完全に分かりあうことなんてないものよ」

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