デットエンドのその先は苦痛の楽園(エデン)
牡鹿
死にたがりの俺がよりにもよってリッチーになった
第1話
俺の心臓に眩い光を放つ聖剣が突き立てられ、傷口からは焼けるような痛みと共に血しぶきを巻き上げ、仰向けに倒れた。血のりが俺を中心に急速に広がり、それと共に意識も溶けだしたかのように、冷めていく。
周囲は俺を倒したことを確信し歓喜に沸き上がった。「やったぞ。ついにあの忌々しい_____を」「俺たちの勝利だ!!」「ざまぁみろアンデット!!」口汚い罵詈雑言の数々が倒れ伏せる俺に向けられる。
そんななか草木も生えない荒野の中心で、一つの生命が終る時を待っていた。
ようやくだ。念願だ。夢にまで見た。死の瞬間だ。忌々しい神の手で、こんな体にされた。死なない身体?冗談じゃない。俺は死にたいんだ。生きたくないんだ。残酷で、薄汚くて、吹けば飛ぶようなゴミな種族が上から目線で世界を征服したかのように我がもの顔で闊歩する世界。自身もそんなものの一員であることに吐き気を覚えた。だから死を望み続け、全てを投げ捨てる様に死んだのに、転移とかふざけるな!!
そんな哀れな俺を彼らは終わらせるために来てくれた。
「っ……ふあはは……」
自然と壊れたような笑い声が漏れ出した。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははは」
それは次第に大きくなって荒野に響き渡る。
その狂った俺の姿を周りを取り囲むように配置された総勢50人もの討伐隊の冒険者たちが、畏怖の表情を隠すこともなく騒めきだした。
「こいつ、本当に死ぬのか?」
「狼狽えるな。あの身体じゃ、抵抗はできん」
「いや、でも……あいつ」
「もうやだよ‼こんなクエスト受けなきゃよかった」
荒野に怒号と悲鳴が入り乱れた。
あーあ……うるさい、せっかく人がいい気持ちで最後の瞬間を楽しんでるというのに、あーでも……その声も……何にも聞こえなくなってきた……もう少し……もう少しで……____________あ_____この感覚だ。
最後の瞬間の見上げた空は、俺の魂を吸い上げてくれそうなほど、どこまでも高く透き通った青い色をしていた。
ゆっくりと瞳孔が開き、開いているはずの瞳からの映像はスーッと消え去りブラックアウト_________________
__________________一瞬だけモノクロの空が映り、視界は色鮮やかさを取り戻していく急速に戻っていく。胸の痛みは消え去り
胸に突き刺さり神々しく輝いていた聖剣は、切っ先から病原菌に侵されたかのように黒く変色し、灰のようにもろく崩れ去り空に舞い上がった。
「っ!!??……_______」
どういうことだ?声が出ない!?否……声は出ていた。ただ聞こえなかっただけだ。そう認識すると同時に俺は聴覚を取り戻し、気が付いた。
「______えっ……」
時間にしてたったの2秒。あまりにも状況は変わっていた。
俺を取り囲んでいたはずの討伐隊50名の内、半数が陰から延びる手に首を掴まれ中吊りにされた挙句、生命力を限界まで吸われ、ミイラ化していた_______
残りの半数はもはや一言たりとも発することはできず、仲間の無残な姿をただただ呆然と見つめていた。誰一人として、これ以上立ち向かってくることもなく。誰一人として、呼吸しない。そんな絶望の時間は数秒ののち解放されたミイラたちによって悲劇へとシフトしたのだ。次々に仲間を襲い自らと同じ結末を与えていく。誰一人として、それに抵抗することもなく。最後の瞬間、彼らは一様に悲鳴すら上げずに、その顔を涙で、鼻水で、汗で、返り血で、唾液で、ぐちゃぐちゃにして誰一人として、現実を受け入れられないままに自ら信じた仲間だった何かに
魂を喰われていった________
そのなかで荒野にたった一人、生きることをやめたい不死王(リッチー)は、終わりのない絶望を覚悟する。
これは人をやめたモノが見る世界……
決して終わることのない苦しみを……
失うことの尊さをあなたはきっと……
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