第7話 春筍

「おおい、蓬!何してる!さっさと行くぞ!」


玄関先で声を張るのは我が家に突然住み着いた狐こと、織上芙蓉。そんなに急かす必要などないだろうに。と、溜息をこぼすは俺、菜丘蓬。


「月並みなセリフだけど、そんなに急いだってデパートは逃げないぞ。ああ、商品は随時逃げるとかいうツッコミはナシな」


「デパートって何?」


「お前それわざとだよな。デパート知らないわけないよな。」


「うん!あ、あとデザートも知ってる!」


「胸はって言うことじゃないぞ」


「デザート食おう!」


ああだめだこいつ、当初の目的を忘れて食欲全開になってる。俺は出発前からあらゆる意味で不安を隠せなかった。





とりあえず、今日の目的を再確認しておこう。


まずは、食材の調達。

結局昨日は騒動のせいで食材の調達には至らなかったので、第一にこれを目的とする。芙蓉がいつまでウチに居座るつもりかは知らないが、まぁ間違いなくしばらくはうちで暮らすことになるだろう。それを踏まえて今日は多めに買い物をすることにする。


その次に芙蓉の服を見繕う。

あくまで二の次に設定しているのは、必ずしも生活面で必須となるわけではないからだ。

だがやはり、芙蓉も女であることを考えると、いつまでも俺のお下がりを着せておくわけにも行かないだろう。初めて出会った時に着ていた服しか持っていなかったようなので、多少は女物の服を見繕わなくては、ということだ。


まぁ・・・・何よりの問題は、服というか、主に下着とかだったりするのだけど。

せめて下着くらいは複数持たせておきたい。でなければ、こいつは今後ズボンの下はノーパンか、今みたいに俺のトランクスで過ごす生活を続けなきゃならなくなる。

それはさすがにあんまりだろう。当の本人は別にノーパンでも構わないと言っていたけど、・・・・なんだ、何といえばいいのか。それは俺の道徳を試されているのか。とにかく、モラル的にそれは俺が却下した。トランクスかノーパンって究極の選択だと思うのだけど、・・・少なくとも俺は間違っていないはずである。

あと、ブラ。なんでこいつ下は穿いてたくせに、上はつけてないんだよ。洗濯物干してた時、なにか足りない気はしていた。気付いてびっくりした。これは何が何でも、購入させなくてはならない。


服装のことを含めずとも、俺的にはもう芙蓉が町中を歩くというだけでもだいぶ不安なわけだが。


神様だか妖怪だかよくはわからないけど、いや、神様も妖怪も本質的には同じなんだろうけど。こいつは少なからず、普通の人間にも姿が見えるらしい。昨日のスキンヘッド一味の反応がそれを証明している。

都合のいい漫画みたいに、妖怪や神様は只の人間には見えないみたいな設定はない。

つまり一般人にこいつの狐耳やら尻尾を見られたら、騒動になりかねないことを懸念しなくてはならないということだった。


俺は靴を履きながら、念のためもう一度芙蓉に確認した。


「・・・・なぁ、やっぱりその耳と尻尾って消したりできないのか?」


「だから、無理って言ってんだろ。私は霊術そういうのは苦手なんだ。せいぜい狐火出すのがやっと。」


「狐なのにか」


「狐差別だ。」


なんだか、漫才みたいなやり取りだった。そういうわけで、しょうがないので芙蓉には耳を隠すためにキャップをかぶってもらっている。


・・・・・ただし、どうしてもあの大きくてもふもふな尻尾を隠す手段がないので、キャップの方も気休め程度だったりする。なんであれ、何もないよりはマシだろうくらいの感覚だった。なので尻尾は諦めてそのままである。小洒落たアクセサリー・・・・に見えなくもない(無理がある)ので、変に動かしたりしなければ何とかごまかせることだろう。


「さあ、そんなことより早く行くぞ。準備に時間かけやがって、女かお前は」


俺が靴を履き終えるや否や、芙蓉は俺の腕をグイグイと引っ張る。うるさいな、女ってゆーな。


芙蓉に連れられるがままに家を飛び出すと、その先の長い階段を駆け下りた。

天輝神社は小高い丘の中腹付近に建つ神社であるがゆえに、石階段を登り降りしなくてはならない。俺は芙蓉に引かれて危うく転けそうになりながらも、街を目指して歩を進めていった。


今日は天気がいい。それに比例するように芙蓉の機嫌も良かった。

燦々と照る太陽のように、芙蓉もまた笑顔が輝いていた。


「で、今日はどこ行くんだ?」


ただ、この狐さんは目的地も知らずに歩いていたらしい。わかんないくせに先頭歩くなよ。


「海藍町。俺らが会ったのと同じとこだよ。」


面倒臭かったので、ツッコむのはやめておいた。


まぁ、一応そこ以外にも店はあるが、海藍町が何かと物を揃えるには都合がよかったりする。商業区なだけあって、ありとあらゆる店がところ狭しと密集しているがゆえに、目的さえはっきりしていれば必要以上に足を伸ばす必要がなくなるのだ。何より近いし。特に理由がない限りはほとんど海藍町で決まりである。


「あれ、あっちってよくわかんない男がいるとこじゃんか。いいの?」


「ああいうのは夜に出没するもんだ。昼間からほっつき歩くほどあいつらも暇じゃないだろ。」


芙蓉が警戒するのも当然かもしれないけど、そういう見立てもあって、それほど遭遇する危険性は視野に入れてなかった。会ってもたぶん何とかなるし。というか、今までだって案外何とかなってきたし。


昨日は、あの時芙蓉が来なかったらどうなってたかしらないけどな。

そういう意味では・・・・まぁ、感謝してる。

勿論、そんなことを正面切って言うような俺ではないけど。


「ふうん、おまえがいいならいいけどさ。」


そう言って芙蓉はまた早足に歩き出した。

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