第72話そして一人に……
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そわそわと何度も後ろを気にしながら、カシアは舎弟の魔物たちとともに、人間界へ戻る洞窟へと向かっていく。
その手には、玉虫色の石が不気味にきらめくエナージュの杖が握られていた。
(人間界に戻れば、あんな中堅魔王ぐらいアタシでも相手できるのに……)
カシアは強く杖を握りながら唇を噛みしめる。口の中が急に苦くなり、体の奥深くまで貯まっていく気がした。
「あ、姐さん、大変です! 後ろからソルが追って来ています!」
幻獣レミュアに並んで飛んでいたガーゴイルが、後方を指さして叫ぶ。
(まさか……アイツら、やられたのか?)
愕然となり、カシアの目が大きく開かれる。
動揺して指示を出せないカシアの代わりに、ワーライオンが大声を出した。
「俺たちもシャンド様に習って、体を張ってソルをとめるぞ! 姐さん以外、全員レミュアから降りろ!」
どの魔物も反論どころか躊躇さえせず、次々にレミュアから飛び降りていく。
最後に残ったワーウルフは、カシアをチラリと見て申し訳なさそうに笑った。
「姐さん、どうかお達者で」
その一言が終わらぬ内に、ワーウルフの姿も消え、カシアだけがレミュアの背に残った。
思わず泣きそうになるが、カシアは歯を食いしばって耐える。
(……絶対に杖を村に持ち帰ってやる。アイツらの犠牲をムダにしてたまるか)
前方にいた魔物たちがいなくなり、前からの風が直接カシアへ当たる。それに負けじと頭を低くし、行く先を凝視し続けた。
間もなくして、洞窟の入り口が見えてくる。
レミュアはそのまま洞窟の穴へ頭を突っ込もうとした。が、その大きな体躯は洞窟に入りきらず、立ち往生することになった。
カシアは背中から降りると、レミュアの顔に近づいてそっとなでた。
「お前はしばらくここら辺に隠れていろ。ソルが洞窟に入ったら、シャンドたちを見つけに行ってくれ」
言葉は話さなかったが、レミュアは返事の代わりにゆっくりとまばたきをして、森の中へと姿を消す。
倦怠感はあったが、ここでめげる訳にはいかないとカシアは息を深く吸ってとめる。そして洞窟の中へと駆け出した。
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