第27話手の熱をにっくきアイツへ
軽く一年や二年は修行するだろうと想像していただけに、カシアは意外そうに目を見張る。
「一発で? そんなに呆気ないことなのか」
「原理を分かってしまえば、どうして今までできなかったのか不思議になるくらいですよ。まずはこれを左手に持ちなさい」
そう言ってエミリオは懐から淡い金色の水晶球を取り出し、カシアに差し出してきた。
「これは真理の玉……本来は修行を積まなければいけないのですが、この玉を使えば強制的に眠っている魔力を呼び起こし、素質があれば魔法を使えるようになります。要は閉じている扉を開くカギみたいなものですね」
高そうな物だな、と思いながらカシアは水晶球を受け取り、左手で軽く握る。手の平に金色の光が映り込むだけで、自分の体に変化が起きた感じはしなかった。
「なんにも起きないぞ?」
「フッ、せっかちはなにも産み出しませんよ。今度は右手の平を私に見せて下さい」
言われるまま、カシアが手を差し出す。
チクリ。いつの間にか手に持っていた針を、エミリオはカシアの人差し指の腹に刺す。
「痛っ、いきなりなにしやがるんだ!」
「こうすれば注意力が散漫な人間でも、指先に集中しやすくなります。……では全身の力を抜きつつ右手をかざして下さい。それから、体中の熱を右手へ集めるイメージを持つんです」
もしこれで魔法が使えなかったらブン殴ってやる。
苛立ちを抱えながらも、カシアはエミリオの言葉通りにしてみる。
熱を手に集めていくことを想像していくと、かざした右手が本当に熱く感じてきた。
「エミリオ、手が熱くなってきた」
「そうですか。じゃあ今度は前を指さして、爪先の一点に熱を集中させなさい。それができたら、その熱をなんでもいいですから、物にぶつけるつもりで放って下さい」
え? これだけ? 本当に呆気ないな。
内心肩透かしを食らったような気分になりながらも、これでなにも起きなかったら……という不安が、カシアの胸に広がりそうになる。
こんなことで弱気になってどうする、とカシアは己の心を奮い立たせた。
(熱を、爪先に……よし、熱くなってきた。いける。これをランクスにぶつけるつもりで!)
人を見下してくる時のランクスを想像し、それに向かって熱を放つ。
ゴウッという音に続き、「熱っ!」というランクスの声が聞こえてきた。
目を開けると、カシアの指先とランクスの肩から白い煙が立ち上っていた。
「カシア、お前オレにぶつけようと思いながらやっただろ!」
走り寄って耳元でがなり立ててくるランクスを無視し、カシアは己の指先を見つめる。
「これ、ひょっとして……」
「よかったですね、カシア。貴女は魔法を使える人間ですよ」
エミリオが微笑を浮かべる。しかしすぐに「ただ」と冷めた表情に戻る。
「指先から出たのは小さな火の玉……元々持っている魔力の量は少ないようですね。多少なら増やすことはできますが、あまり強力な魔法は使えませんね」
「そうね。中級クラスまで使えればいいほうねえ」
ひょこひょことエミリオにルカが寄り、二人は目を合わせてうなずき合う。
それからルカはカシアへ柔和に微笑んだ。
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