第14話鍛えてやるよ
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「まったく、お前さんはどれだけ無謀なことをすれば気が済むんだよ。命知らずにもほどがあるだろうが!」
無言で村の横に広がる丘に連れていかれると、開口一番にランクスが怒鳴りつけてきた。
あまりの迫力に身を縮ませる――ことなく、カシアはふてぶてしくそっぽを向いて黙り続ける。
懲りた様子のないカシアに、ランクスは盛大なため息をついた。
「はぁー……今まで血の気が多くて命知らずなヤツは山ほど見てきたが、ここまでバカなヤツは初めてだぜ。しかも見たところ十三歳くらいのガキが――」
「バカって言うな。あとアタシは十六だ。ガキじゃない」
一瞬ランクスが信じられないものを見るような目になる。しかし、咳払いしてすぐに話を元に戻す。
「そ、それでも十分ガキだろ。ガキのくせに、年寄り以上の石頭だな。自分の命とちっぽけなプライド、どっちが重いかなんて少し考えれば分かるだろ。盗賊の連中を逃がした時もそうだ。お前が命を張ったところで、俺たちの足止めなんか無理って分からなかったか? 無意味に生き急ごうとするなよ」
いちいちシャクにさわる言い方しやがって。もう耐えられない。あーガマンして損した。
カシアは抑えていたものを解放し、ランクスを睨みつけながら声を荒げた。
「お前がアタシの生き様を決めるな! アタシは我が身可愛さで逃げて負け続けるより、命を賭けてでも勝ちたいんだ。それにアタシにとっては、自分の命よりも仲間の命のほうが大切だからね。無意味かどうかなんて、やってみないと分からないだろ。アイツらのために命をかけたことに悔いはない」
すぐに反論されると思っていたが、ランクスは熱が冷めた目でカシアを見下ろしてきた。
「妙な根性を身につけやがって……だがな、命を犠牲にして誰かを守ろうと考えてる時点で、お前さんは負けてんだよ」
負け? 理解できずにカシアは眉をひそめる。
「どういう意味?」
ランクスは小さく首を振り、呆れたような長息を吐いた。
「これから先、仲間がピンチになっても、お前さんがすでに死んでいたら助けられないんだぞ。自分が満足すればそれでいいなんて考え、身勝手にもほどがあるとオレは思う」
ランクスの諭す口調が腹立たしいのに、カシアは言葉に詰まる。
先に自分が死んでしまえば、もう大事な仲間を助けられない……こんな単純なことを、ランクスに言われるまで気づかなかった。
おめでたいのは自分の頭だった。
己の軽率さにカシアは口を閉ざしてうつむく。
しばらく無言が続いた後、ランクスが「なあ」と呼びかけてきた。
「……本気で強くなりたいか?」
カシアは顔を上げてランクスを見つめる。同意の言葉どころか、うなずきすらしなかったが、自然と目に力がこもっていた。
強くなった眼差しを返事としてとらえたのか、ランクスが不敵に笑った。
「そのふざけた根性は気に入ったぜ。だったらオレがお前さんを鍛えてやるよ」
急な話にカシアは目を剥き、心の底から不快そうに顔をしかめた。
「誰がアンタなんかに――」
「そう言って逃げるなら別にいいぞ。弱いまんまで生き続けたいならな」
どうしてこの男は、こんなにアタシを煽るのがうまいんだ。……上等だ!
カシアは勢いよくランクスを指さす。
「そこまで言うなら受けて立ってやる! 強くなって、あのジジィもアンタもブッ倒して、絶対にギャフンと言わせてやるからな!」
言ったからには後戻りはできない。でも後悔なんてするものか。
口を硬く閉ざして腹をくくるカシアに、ランクスは満足そうにうなずいた。
「まあいきなり鍛えようとしても、適性が分からなかったら意味ねぇしな。まずは村のヤツらにも協力してもらって、お前の適性を調べてやる。その前に体を全快させろよ」
「アタシに命令すんな。そんなこと言われなくてもやるさ」
話はついたんだから、もうここにいる必要はないだろう。さっさと戻って休んでやる。
カシアはくるりと回って村に足を向けた。
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