第14話鍛えてやるよ


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まったく、お前さんはどれだけ無謀なことをすれば気が済むんだよ。命知らずにもほどがあるだろうが!」


 無言で村の横に広がる丘に連れていかれると、開口一番にランクスが怒鳴りつけてきた。

 あまりの迫力に身を縮ませる――ことなく、カシアはふてぶてしくそっぽを向いて黙り続ける。


 懲りた様子のないカシアに、ランクスは盛大なため息をついた。


「はぁー……今まで血の気が多くて命知らずなヤツは山ほど見てきたが、ここまでバカなヤツは初めてだぜ。しかも見たところ十三歳くらいのガキが――」


「バカって言うな。あとアタシは十六だ。ガキじゃない」


 一瞬ランクスが信じられないものを見るような目になる。しかし、咳払いしてすぐに話を元に戻す。


「そ、それでも十分ガキだろ。ガキのくせに、年寄り以上の石頭だな。自分の命とちっぽけなプライド、どっちが重いかなんて少し考えれば分かるだろ。盗賊の連中を逃がした時もそうだ。お前が命を張ったところで、俺たちの足止めなんか無理って分からなかったか? 無意味に生き急ごうとするなよ」


 いちいちシャクにさわる言い方しやがって。もう耐えられない。あーガマンして損した。

 カシアは抑えていたものを解放し、ランクスを睨みつけながら声を荒げた。


「お前がアタシの生き様を決めるな! アタシは我が身可愛さで逃げて負け続けるより、命を賭けてでも勝ちたいんだ。それにアタシにとっては、自分の命よりも仲間の命のほうが大切だからね。無意味かどうかなんて、やってみないと分からないだろ。アイツらのために命をかけたことに悔いはない」


 すぐに反論されると思っていたが、ランクスは熱が冷めた目でカシアを見下ろしてきた。


「妙な根性を身につけやがって……だがな、命を犠牲にして誰かを守ろうと考えてる時点で、お前さんは負けてんだよ」


 負け? 理解できずにカシアは眉をひそめる。


「どういう意味?」


 ランクスは小さく首を振り、呆れたような長息を吐いた。


「これから先、仲間がピンチになっても、お前さんがすでに死んでいたら助けられないんだぞ。自分が満足すればそれでいいなんて考え、身勝手にもほどがあるとオレは思う」


 ランクスの諭す口調が腹立たしいのに、カシアは言葉に詰まる。

 先に自分が死んでしまえば、もう大事な仲間を助けられない……こんな単純なことを、ランクスに言われるまで気づかなかった。


 おめでたいのは自分の頭だった。

 己の軽率さにカシアは口を閉ざしてうつむく。


 しばらく無言が続いた後、ランクスが「なあ」と呼びかけてきた。


「……本気で強くなりたいか?」


 カシアは顔を上げてランクスを見つめる。同意の言葉どころか、うなずきすらしなかったが、自然と目に力がこもっていた。

 強くなった眼差しを返事としてとらえたのか、ランクスが不敵に笑った。


「そのふざけた根性は気に入ったぜ。だったらオレがお前さんを鍛えてやるよ」


 急な話にカシアは目を剥き、心の底から不快そうに顔をしかめた。


「誰がアンタなんかに――」


「そう言って逃げるなら別にいいぞ。弱いまんまで生き続けたいならな」


 どうしてこの男は、こんなにアタシを煽るのがうまいんだ。……上等だ!

 カシアは勢いよくランクスを指さす。


「そこまで言うなら受けて立ってやる! 強くなって、あのジジィもアンタもブッ倒して、絶対にギャフンと言わせてやるからな!」

 

 言ったからには後戻りはできない。でも後悔なんてするものか。

 口を硬く閉ざして腹をくくるカシアに、ランクスは満足そうにうなずいた。


「まあいきなり鍛えようとしても、適性が分からなかったら意味ねぇしな。まずは村のヤツらにも協力してもらって、お前の適性を調べてやる。その前に体を全快させろよ」


「アタシに命令すんな。そんなこと言われなくてもやるさ」


 話はついたんだから、もうここにいる必要はないだろう。さっさと戻って休んでやる。

 カシアはくるりと回って村に足を向けた。

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