11. intelligence
まず左のスクリーンには、環のダンスの映像を映した。
映像といってもカメラで捉えたものではなく、ボディスーツの動きを三次元モデルで再現したものだ。
三次元モデルなので、好きな角度に回せるし、スローや逆再生など時間軸も自在だ。
さらに、ここにジャケットとパンツのデータを重ねると、服の膨らみや皺なども忠実に再現できる。
肉体の動きそのものを見たければ、ボディスーツのデータだけを見ればいいし、服を着た状態を再現したければ、ジャケットとパンツのデータを重ね合わせる。
この二つのモデルの行き来は自在にできる。
中央には、ボディスーツのデータを違った読み方で視覚化した映像を置いた。
画面は横線でいくつかに区切られ、一番下の区分が足元に対応している。
右足と左足の複雑なパターンや、膝の折り曲げなども読み込んだ上で、それをいくつかの視覚パターンとして左から右へ時系列に映していく。
下から二番目の区分が腰の動きに対応する。
その上の一番広い領域を割り当てられているのが胸と肩と腕と手のすべての動きの組み合わせを視覚化したものだ。
左の画面の三次元モデルが動くたび、中央のスクリーンのタイムライン上では同時にパターンが動く。
これにより、くり返されるパターンや、その変種などがどのように現れたり消えたり組み合わされるか、全時点を見ながら知る事ができる。
右のスクリーンは翔太が普段から慣れ親しんでいる、音声データのタイムラインだ。
音の要素ごとにタイムラインを持ち、そのタイムラインが何行にも並んで、左から右へとタイムカーソルが動いていく。
ただし、ここで並んでいる各音声データとは、環のダンスの各部位の動きに応じてそれぞれの音声を割り振ったものになる。
たとえば単純に言えば、環が右足を踏み出す時にはバスドラが鳴り、引くときにはスネアが鳴るように設定しておけば、そのようなタイムラインになるわけだ。
右の画面に表示された音声データは、すでに環の肉体のトラッキングデータと連動している。
しかしこれは仮のデータだ。
翔太のソフトに残っていた、環の前回のレコードを編集した時のアルゴリズムを、今回のデータにそのまま流用してみたに過ぎない。
前回のアルゴリズムは、前回の環の身体の動きに合わせて慎重に組み上げたものだから、今回のデータにはまるで適合しないことはわかっていた。
しかし翔太は、ひとまずそのままプレイボタンを押してみた。
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