03. devotion
基本的には一メートル四方ほどの範囲の中にありながら、環の足は踏み出しては戻り、戻っては踏み出していた。
そこには確かにいくつかの型の組み合わせは認められるとはいえ、その組み合わせはかなり複雑なステップを形づくっていた。
その上にさらに、腰と腕と手の動きが加えられ、さらに複雑な一つのダンスになっていた。
腰は左右、あるは前後に突き出されたり引き込まれたりしていた。
両腕は、肩の関節と肘の関節を駆使し、体の横や前や後ろや上で、様々な形を取った。
そして両手は、握ったり開いたり、表返したり裏返したりされていた。
それらの全体として、環の体は時に左右対称だったり、左右が同じ方向を向いたり、てんでバラバラだったりするわけだが、しかしそこには確かに、それを駆動する背後の論理や構造があるのが感じられた。
そしてだからこそ、その即興に思えるダンスの裏には、確かに積み重ねられてきた訓練と作法がある事が見て取れた。
訓練によって蓄積された型と秩序があるとはいえ、環の意識にあったのはただ一点、感情に逆らわない事だ。
何か説明のつかない、湧き出る感情だけが、環の導き手だった。
いくつものロックンローラーやミュージシャンたちが、なんとか外に吐き出したいともがきながら、ギターをかき鳴らし喉を枯らしてシャウトを重ねてきたあの感情。
ギタリストが奏でるあまりにも切ないギターソロに身を引きちぎられそうになりながら、それなのにどうしても体はむしろ平常であることしかない事に身を震わせるようにして苛立ちながらヴォーカリストが涙を流す、あの感情。
その感情に形を与えてやるのが、今の環の務めだった。
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