彷徨う魂の詩

ロッドユール

彷徨う魂の詩

 いつの頃からか世界が灰色になっていた。全ての人間が絶望で、全ての人生がまた絶望だった。


 僕は医者に行った。

 言われるがまま、心理テストを受け、看護師の問診を受け、カウンセラーのカウンセリングを受け、医師の診察を受けた。

 看護師たちはにこりともしなかった。それはまるでそうすることをそう教育されたみたいだった。

 カウンセラーは聞き飽きた絵本の朗読を聞くみたいに僕の話を聞いて、最後に冷たく「あなたは病気だ」と言った。

 医者は数分理屈を言い、薬を出した。

 それは機械的な人たちの機械的な動きだった。心の無い言葉が一番人を傷つける。そのことすらも彼ら彼女らは知らなかった。


 僕は医者に言われた通り薬を飲んだ。それは行く度ごとに増えた。

 灰色だった世界は、だんだんどす黒くなっていった。


 薬をやめようと思った。

 薬を飲むのをやめてみた。

 地獄のような不安と絶望が襲ってきた。

 惨めだった

 あまりにも惨めで、あまりにも惨め過ぎて自分の全てを消してしまいたかった。

 僕は死のうと思った。

 手首を切った。赤い線のような血が滲んだ。

 死ねなかった。惨めだった。ただ惨めだった。


 医者は薬を出し続けた。僕は飲み続けた。自分の全てが壊れていくのが分かった。でも、僕は薬を飲み続けた。


 僕は絶望と共に壁にもたれて座っていた。もう全てがどうでもよかった。立ち上がる気力もなかった。


 僕の隣りに女性が座った。

 僕はその人を見た。

 その人は微笑んでいた。優しく微笑んでいた。


 僕は気づくと、ただ訳も分からずその微笑みに導かれるように、自分を語っていた。

 僕は泣いた。今まで溜め込んでいたありとあらゆる感情が溢れ、それが流れ出た。

 その人はただ隣りにいてくれた。その人は何も言わず何もせず、同情するわけでも、慰めるわけでもなく、ただ隣りにいてくれた。優しく、温かく。

 嬉しかった。ただそのことがただ嬉しかった。


 顔を上げると世界に色が戻っていた。虹を描いた淡い水彩画のような色だった。

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