レベル275

「やばいよ! やばいんだよ! たっけてクズえも~ん!」

「おい、誰がクズだって!?」


 クルーザーで海の上を快調に飛ばしていると、どこからともなく、一匹のドラゴンが白豚を乗せてやってきた。


「おい、離れろよ!」

「ガウガウ、モウ、ハナサナイ」


 そのドラゴン、幼女になると、オレの背中に引っ付いて離れない。

 今度は逃げられないように、ずっとしがみついているらしい。

 やめろよお前! トイレはどうするんだよ? えっ、オレにトイレまで行けって? ええい離れろ! そんなもんまで面倒見切れるか!


「だから言ったのになぁ」

「ウッシッシ、自業自得ジャね」

「ちょっと二人とも、じゃれあっている場合じゃないんだって!」


「「ジャレアッテナイ!」」


 えっ、なんか王様にされそう?

 良かったじゃねえか。王様目指してたんだろ。

 というかおめえら、誰が王様になるかで競ってたんだろ、どうして今更、譲り合ってんだよ?


 どうやらカシュアの奴が、ピクサスレーンの王様にされそうになっているとか。


 カユサルとエルメラダス姫様の強い要請で、元第三王子であるカシュアを次期国王にしようと。

 カユサルの奴はともかく、なんで姫様まで?

 確か、姫様は王様になっても良さそうに言ってたんじゃね。


「なんでもキミの所為で、王様の仕事の質が変わったから、脳筋の自分じゃ無理だなんて言い出したんだよ」

「なんでオレの所為? というかあの姫様、自分で自分の事を脳筋と言いきったのかぁ……」


 まあ、間違っちゃいねえだろうが。

 自覚がある分、マシなのかねえ。

 いや、自覚があろうがなかろうが、職場放棄はダメなんじゃね?


「もうお前、王様しろよ。聖王なんてスキルも持ってんだろ、やってみたら案外、なんとかなるかもしれないぞ」


 それに王様と言えばお金持ち。

 お金持ちと言えば、食道楽。

 資金に物を言わせて、世界中のおいしい物を取り寄せほうだい。


 毎日贅沢して、遊び放題じゃないか。


「それで国が亡んだらどうなるの?」

「そりゃあ……革命でギロチンかね?」


 ギロチンでタイムリープしてやり直し、っていうのは、最近の流行りみたいだぞ。


「イヤだよ! キミが代わってよ!」

「オレじゃ代われないだろが」


 なんとかしてよぉ。ってしがみついてくるカシュア。

 あっ、やあらけ。じゃねえ。前後からしがみつかれたら身動きできねえよ!

 ええい二人とも、いい加減離れろ!


「彼が居るとほんと賑やかになりますね」

「うん、お兄ちゃんと一緒だと退屈しないよ!」


 ウィルマとレリンちゃんが和やかに話している。

 和んでないで助けてくださいよ。

 というかお前ら、どうやってオレの居場所を知ったんだ?


「ラピス君に聞いたよ」


 ああ、そういやこいつら、ラピスと念話みたいな事が出来るんだったか。

 そしてラピスの奴は、どこに居てもオレの居場所が分かるとか言ってたな。

 じゃあ逃げられないジャン。


 もう詰んでるじゃないか!


 オレはこいつらの神様のはずなのに、カードにはなぜか、天敵・カードモンスターと記載されている。

 さっきのカシュアの話じゃないが、反乱とか起こされたら、それこそ、あっと言う間にギロチン行きだ。

 逃げようにも、どこに逃げても特定される訳だし。


 ロゥリなんて、クイーズ特効と言う、ワケ分からん特殊効果すら持っている。

 なんでオレ特定でダメージが上がるんだよ? 不思議でたまらんわ。

 さすがに前世でも、そんな効果を持ったカードは、なかったと思うぞ。


 パワードスーツが40レベルになったおかげでクリスタルカードも増えたし、カードモンスターに特効がある邪神にクラスチェンジするのもいいかもしれない。

 ああでも、オレのカードを操作できるのはラピスだけか。

 頼みこみゃ、してくれるだろうが、代わりに何を要求されるものやら。


「このまま、海の向こうまで逃げ続けるか……」


 物理的に距離を離すしか、もう手はない。

 そういやウィルマは、この海の向こうがどうなってんのか知っているのか?


「知りませんよ。私達は基本、自分の縄張りから出ません」


 まあ、こいつらみんな引きこもりだしな。


「竜種は縄張り意識が強いですしね。竜王ともなれば力が強すぎ、少しじゃれただけでも周りに甚大な影響を及ぼすので、互いに干渉する事すら避けていますわ」

「でもロゥリの奴は、どこにでも自由に飛んで行っているし、こないだは男漁りをしていたぞ」

「その子が特別なだけですわ」


 背中のロゥリが、特別と言われてフンスと鼻の穴を広げている。

 いや、褒めてないからな?

 しかし、この先がどうなっているか誰も知らないわけだ。


 そうなると急に興味が湧いてきたな。


「よし、船長! 錨を上げろ、オレ達の向かう場所は、いまだ誰も知りえぬ未知なる世界だ!」

「アイアイサー! 面舵一杯!」

「まあ、動かすのは私な訳ですが」


 ウィルマが腕を突き出すと、どんどん加速して行く我らが希望船、クィーン・ウィルマ号セカンド!


 風を切り、大海原を突き進む姿は、夕日を受けて美しく輝く。

 船首に立つオレ達は、切り裂く風を受け、遥か水平線の彼方を望む。

 いざ往かん、新大陸へと!


「つ~か、いつまでしがみ付いてんだよ?」

「そんな事を言いいながら、こんな美少女にしがみ付かれて実はちょっと嬉しい癖に。ウリウリ」


 うぜえ。せめて体重減らしてから言え。


「ちょっと冗談だよ! 落ちちゃう、落ちちゃうから!?」

「心配すんな、後でカードにして戻してやる。その体重も戻さないといけないしな」

「あわわわ、許してください! 神様、仏様、クイーズ様!」


 なんて言っているぞ、ロゥリ。

 いいか、この世界にはな、


「「カミモホトケモ、ソンザイシナイ」」


 そう異世界的だけに。


「そんなぁ……」



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そんな風に脅した所為か、意地でも離れない二人に、前後からしがみ続けられるクイーズ君でした☆

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