第十七章
レベル256
屈強な兵士を両脇に従えた、小学生らしき少女が教室に入ってくる。
「貴方達、もう帰ってもいいですわよ」
少女が両脇の兵士へそう伝えるものの、兵士達は動こうとはしない。
それもそのはず、兵士達は国王より直々に娘であるパセアラを守る事を命じられている。
用も無いのに、その傍から離れる事は出来ない。
たとえそれが、パセアラ本人からの指示であろうとも。
パセアラは小さく舌打ちすると、教室の隅の机へ向かおうとする。
「姫様、お待ちしていました。どうぞ、こちらに。特等席を用意しております!」
と、教師らしき人物にとある場所へ誘導される。
教壇の正面にある金ピカの豪華な席へ。
それを見て、うんざりした表情を見せるパセアラ。
ヒソヒソと周りの子供達から、
(姫様ともなれば特別扱いも当然なのですかね?)
(シッ、聞こえますわよ。障らぬ神に祟り無し、近寄らないのが一番)
(王様は姫様のことを大層かわいがっていると聞くし、ちょっとでも粗相があれば大変な事になるぞ)
という小声が漏れている。
そんな子供達をキッと睨み付けるパセアラ。
とたん教室の中が静寂に包まれる。
「よし、とうとう追い詰めたぞ! 出でよ、神龍バハムート!」
そして教室が静かになった所為で、パセアラの登場などに気づきもせず奥の方で何かに熱中している子供達の声が響く。
「クックック、甘いな。コレを見てみろ」
「なっ……!?」
「ステータスが全てマックス……」
クイーズ様、ずるいですよぉ……と嘆く少年の声が聞こえる。
彼等はとある少年が作り出した、カードゲーム、とやらに熱中しているのであった。
そのクイーズと呼ばれた少年は、そんな批判も何のその、クックック、創造主たる我の特権だ! などと言っている。
そんな空気の読めない連中が気になったのか、教師の制止を無視してパセアラはその子供達に近づいて行く。
「それはいったい、何をしているのかしらね」
「誰だあんたは? 女はお呼びじゃねえんだよ」
「えっ、……ちょっ、ちょっとクイーズ様、このお方は……」
そんなパセアラに話かけられた子供達は、クイーズを除いて慌てて後ずさる。
「ク、クイーズ様、このお方は、パセアラ姫でございます。あまり無礼な口ぶりは……」
「ん、パセアラ姫? ああ、あの邪魔で趣味の悪い特等席を用意してた奴か」
「ちょっ、ちょっとクイーズ様!?」
そんな横暴な態度をとる少年を周りの子供達が慌てて諌める。
「ハッ、王女様がどうしたってんだよ? オレには『天啓』のスキルがあるんだぜ。たかが小国のお姫様なんざに頭を下げるいわれはねえ」
「…………驚いたわ、この私に向かって、よくもまあ、そんな口が利けたものね」
パセアラの目付きが獲物を狩る鷹の様に鋭くなる。
それを見てヒィィイと空気が抜けるような声をだして慄く周りの子供達。
だが、クイーズはそんな空気もなんのその、パセアラに指をつき付けて続ける。
「ハハッ、増長しすぎだろお前。お姫様に生まれたからって何もかもが自分の思い通りになると思ったら大間違いだぜ」
「そう……」
「オレを跪かせたいなら、世界の支配者にでもなってみろ。そうすりゃ考えてやらないこともないぞ」
「そう……」
「ま、見た目は申し分なさそうだし、なんだったら、オレが世界を支配した暁には、后に迎えてやろうか? ん」
「そう……」
そんな空気の読めないクイーズの態度に、取り巻きの子供たちの顔は、さらに青ざめていく。
少女が左右に居る屈強な男達になにやら命令をしている。
「お、おい、何だよ? オレは何れ世界を支配する帝王様だぞ! そんなオレをどうするつもりだよ!?」
その屈強な男達に左右から腕を持ち上げられ、空中で足をバタバタさせる少年。
「さて、それでは行きましょうか」
「ど、どこに行くってんだよ?」
「あら、私を后に迎えたいのでしょ? ならばきちんと挨拶をしてもらわなければなりませんわ。私のお父様に」
・
・・
・・・
・・・・
と、いう所で目が覚めた。
そうか、そういやあったなそんな事。
あれかぁ、確かにオレから婚約を申し込んでると言えない事もない。か?
…………つ~か、昔のオレ、勇者すぎるだろおおぉぉぉーー!!
よくもまあ、パセアラにあんだけの事をしておいて首が繋がっているな。
今思えば、あの性格でなんで生きてこれたのだろう。
その後もパセアラの婚約者って立場がなければ詰んでいたかもしれない。
……もしかしてパセアラの奴、そこまで考えてオレを助けてくれていたのか?
いやまさかな。小学生だし。6歳ぐらいの話だし。さすがにそこまでは考えては……
あの頃から攻撃的で皮肉っぽいところはあったが、最後はいつも取るに足らない事と言って片付けていた。
あんな性格で衝突も結構あったが、その所為で処罰を受けた奴は誰も居ない。
オレを含めて。
ほんとパセアラさんには頭が上がりません。
結局あの後、必死の抵抗も空しく、パセアラに押し切られてしまった。
偶に最後まで頑固な所もある。
うちの親父さんは良くやったと褒めてくれたが。
そういや今の実家、どうなっているんだろうな?
ダンディも言っていたが、正直、非常に微妙な立場になっていないか。
国王が復帰した事により、うちの親父さんは反逆者状態。
竜王との密約で、オレの関係者には手を出さない事になってはいるだろうが……
政治的な切り離しは行っているだろう。
その為のダンディの引き抜きだろうしな。
あのお人が今の現状を、手をこまねいて見ているだけ、ってのも考えずらい。
きっとダンディも何か手をうっていると思うが。
…………うってるよね?
なんだか嫌な予感がしてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「え、祝賀会……ですか?」
「うむ。今までは自粛していたのだが、さすがにコレばかりは参加せざるをおえぬ」
クイーズの予想とは反して、クイーズの父は今代の国王が在任中は貴族としての行動を完全に自粛するつもりであった。
国王を売り飛ばそうとした行為の代償は重く、挽回は不可能と判断してのことだ。
勿論、全てを諦めたという訳ではない。
貴族社会から遠のいた分、商家や職人達など、平民への結びつきを強化し、こっそりと会社を作り運営などもしている。
今ある豊富な資金を持って、投資・買収を行い、国王にばれないように新産業の利益に食い付いて行く。
新産業は王家主体のため、貴族の力は徐々に落ちている。
逆に力を付けて行くのは金を持った商人達だ。
今はただ、大きく動かず、じっくりと地力を溜めるとき。
「しかし、さすがに直々、王家からの招待がくれば断れぬ」
そんな一見して静か過ぎるゼラトース家に不審を抱いた国王が、祝賀会の招待状を送りつけてきた。
参加して万が一、今やってる事の尻尾でも捕まれると不味い。
そう思ったクイーズの父は、事情をまったく知らない、しかし家格に見合う代理を思いつく。
そう、クイーズの妻、エクサリーを。
「顔を出すだけで良い、傍にはレンカイアを付けよう、どうだ行ってはくれぬか?」
今は貴族との繋がりを作るのは不味い。
エクサリーならば誰も寄ってくる事はないだろう。
顔さえ出せば義務も果たせる。
少しばかり肩身の狭い思いはするだろうが、貴族の妻であるならばそれぐらいは耐えて当然である。
(クイーズの為、なんだよね?)
『さ~て、どうかしらね。コイツ絶対、禄でもない事考えているわよ』
(それでも、これは覚悟していたこと。うん、私、がんばる!)
『あんまり大丈夫じゃなさそうねえ』
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