レベル213

「という事は、お坊ちゃまは全面無罪を主張なさる訳ですよね」

「そもそもオレと姫様がそんな事をしていたなら、絶対誰かが気づくだろう」

「何を言う、それらしい事をしたではないか」


 えっ、いつ?

 まさかオレの知らないうちに……


「あの瓶には幼少のおり私が口をつけたもの、それにクイーズも口をつけたわけだ」

「……姫様、それ本気で言ってます?」


 間接キッスじゃ子供は出来ませんよ。というカイザー。

 何を言っている、現に出来たではないか! などと反論する姫様。

 ……そうッスね。ちょっとカイザーさんもっと粘って!


 いったい王家の性教育はどうなっているのだろうか?


「まあ姉貴は、そっち方面はからっきしだったからな」


 慌ててすっ飛んできたカユサルがそう答えてくれる。

 なあカユサル、どうしたらいいと思う。

 この子は無機物から人になった訳だ、解放する訳にはいかない。


 となると、責任をとらなければならないのだろうか?


「その必要はありませんよ、この子は俺がソーサーと一緒に育てます。ソーサーも歳の近い兄弟がいたほうが……」

「何を言うカユサル、この子は私が育てるぞ」

「ハッ、そんなの出来る訳ないだろ。次期女王ともあろう者が婚前前に子供が出来るなんてとんでもない不祥事。ピクサスレーンは国を上げて師匠と戦争をするハメになる」


 姫様はそんなカユサルに向かって決意を込めた表情で答える。


「この子の父親が誰であるか、言わなければ誰にも分からぬ」

「それでも、噂が上がれば……」

「カユサル、私はな、立場があり、クイーズよりも国を優先する、そう言ったのだ」


 だが、この子を我が手に抱いた時、そんな想いは吹き飛んでしまった。と呟く。


「この子の為ならば、何が相手であろうとも戦って見せる! 例えそれが、国であろうとも、だ!」

「…………チッ、姉貴がそういう顔をしたら何を言っても無駄か。仕方ない、俺も協力してやるよ」

「カユサル、お前……」


 え~と、オレはどうしたらいいのでしょうか?


「ガウガウ、クイーズ、カッコワルイ」


 お前居たのか?

 そんな事言われても、急に子供が出来て、しかも奥さんじゃない相手の。

 もうどうしていいか分からないよ。


 隣でアポロさんが生命の雫、生命の雫ってブツブツ呟いているのも怖い。


「とりあえず、クイーズが、その……そんな事した訳じゃないんだよね?」


 それだけは誓って。オレはエクサリー以外とはそんな事をするつもりはない!


「本当に……?」

「本当だ!」


 エクサリーは神妙な顔をして、うん、分かった。と呟く。

 分かってくれてなによりです。

 オレも少し肩の荷が降りた気がする。


 結局、暫くの間、対面上はカユサルの子ということにして、折を見て発表する事に決めたようだ。

 別に姉ならば、弟の子を育てていてもなんの問題もない。と言うが、本当なのだろうか?

 うちは母親が、母親らしいことをさせてもらえなかったんだが、うちだけ特別だったのだろうか?


「とにかくこの子は私が育てる、以上だ!」


 そう言って話を打ち切る姫様。

 カユサルが頭を抱えているが、ここは頑張ってもらうしかない。

 次はほら、セレナーデさんのカードが増えたら、好きに使わして上げるから。


「本当ですか師匠!」

「いいよなラピス?」

「そうですね、クリスタルカードは……通常カードと交換でどうでしょうか?」


 こだわるなお前。

 さては、まだエンペラーに未練があるな?

 もうやめとけよ、アレは絶対、地雷ルートだから。


 結局交渉の末、クリスタルカードはこちらに貰う、その代わりと言っては何だが、今持っているカードの内一枚を提供するという事になった。


「さっそくアイリスブラッドのマンドラゴラを探さねば」


 などと呟いている。

 ローゼマリアと同じような事を言ってるな。

 まあ、ほどほどに頑張れ。


 ほどほどだぞ?


 その夜の事だった。


「じゃあ、ホウオウちゃんとギターちゃん、お願いね」

『うん、任せといて! ほら行くわよ』

「ううう……」


 なにやら不服そうな顔をしたギターちゃんが炎の小鳥に引き摺られていく。

 その二人を見送ったエクサリーさんが、モジモジしながら問いかけてくる。


「ねえクイーズ、その、やっぱり、……子供欲しい?」


 えっ、そりゃもう! エクサリーとなら何人でも!


「だったら、その……スル?」


 そんな上目遣いのエクサリーにズキューン! と、ハートを射すくめられる!

 フラフラとエクサリーに近寄って行くオレ。

 真っ赤な顔でそんなオレを受け止めてくれるエクサリー。


 やっぱり来たなバカウサギ! ここは通しゃしないわよ! アチョー、イダッ!

 フッフッフ、今日はエクサリーに正式にあんたへの妨害を認めて貰ってるんだからね! 手加減はしないわよ! イダッ、イダダッ! なんであんた実体の無い私に触れられるの!?

 あなた達の方こそ扉に耳を引っ付けてなにやってるんですか。さすがに私も空気を読みますよ。今日は誰にも邪魔をしないように言ってますので、ほら、あなた達も行きますよ。


 えっ、そんなぁ~。などといった声が扉の向こうから聞こえる。


 ちょっと、外が煩いが気にしていられない。


「顔、あんまり見ないで欲しい。こんな時まで怖がられたくないから……」

「見ない訳にはいかない、だってこれが、オレが惚れた女の顔なんだから」

「クイーズ……」


 エクサリーは泣き笑いのような笑顔を浮かべる。


「できればクイーズ似の子供が良いな……」

「オレはエクサリー似の方が良い」


 そう言って二人笑いあう。

 そんなささやかな夜が、ゆっくりと過ぎて行くのだった。

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