レベル212 『モンスターカード!』で、ゲットしてみたら……修羅場です。

 随分長い間沈黙していたかと思うと、最後にため息をつく。


「私には立場もある、すべてを放り投げて、自分勝手に生きる事は許されない」

「人は基本的にカード化される存在ではありません。それを超えるほどの何かが必要なのでしょう」

「なるほどな……だがクイーズよ、これだけは信じて欲しい! 立場上、私はお前を第一優先にはできない、だがっ、想いはそこの小娘に決して負けてはおらん!」


 そう言うとゴトリと小さな瓶を机の上に置く。


「私が本来カード化してもらおう思っていたもの、生命の雫の残りだ。この量ではもはや誰も救うことはできん。だが、私とお前を救ってくれたコレを、消えぬままずっと持っていたいと思った」


 この生命の雫は幼少のおり、高熱を出して命が危うくなった姫様の為にと、今は亡き祖父である前国王が用意したものなのだと。

 それこそ、世界に数個しか現存しないと言われている、生命の秘薬エリクサー。

 その内の一つである。


「そんな貴重なものをオレに?」


 今更ながらに驚いた顔をするオレ。


「なあに、お前にはコレを使うだけの価値があると思った。そして今は、コレだけが私とお前を繋げるたった一つのアイテム」


 そう言って優しくその瓶を撫でるエルメラダス姫様。


「結局、私とお前の間にはいい縁が築けなかったようだな。ならばせめて、このたった一つの縁を私のカードにして持っていたい」

「姫様らしくないッスね。もう敗北宣言ですか?」

「いや、今ようやく分かった。王たるものは愛するものを伴侶に迎えるべきではない。愛するものの幸せを願うのなら特にな」


「姫様……」


 さあ頼む、と言って差し出される小瓶。


 なるほど生命の秘薬か。

 これがカード化出来たら、生命の雫が量産できそうだな。


 オレは何も言わずそれに向けてカードを掲げる。

 暖かな優しそうな光がカードから差しだして小瓶を包みこむ。

 その光をうけてキラキラと輝く生命の雫。


 最後に小瓶の中の雫が全て消え去ってしまう。


 そして瓶から小さな丸い光が浮かび上がって行く。

 その光が、中心へと凝縮されていき、一枚のカードを形どる。

 オレはそのカードをそっと手に取る。


『クイーズとエルメラダスの子』

 ☆1・レベル1


 は?


 オレは両目を揉みしだく。

 そしてもう一度よくカードを見てみる。


『クイーズとエルメラダスの子』

 ☆1・レベル1


 いやいやいや、そんなはずはない。

 うん、ないよね?


 ………………ないって言って下さい!

 

 えっ、何! どういうこと!?

 アリエナイ! アリエナイヨネ!!

 だって子供が出来そうな事してないもん!


 オレは急いでそれを懐にしまおうとする。


 しかし姫様から伸びてきた黒い影がスッとそれを取り上げて行く。

 いかんっ! それを見られたら不味い!

 なにが不味いって!? こりゃやべぇえええ!


「なっ……!? こっ、これは……!?」

「うわぁ……姫様、何時の間に……なんだ、やる事やってたんスね」

「おい、クイーズ! これはどういう事だ!」


 アポロさんがエクサリーさん並みの凶悪な顔で迫ってくる。

 そういえば以前に、怖い顔に憧れてたんですよね?

 良かったじゃないですか、ちびりそうなぐらい怖いです。


「やだお坊ちゃま……不潔」

「いや待ってくれ! オレはヤッてない! ヤッてないんだよ!」


 本当なんだ! 信じてくれ! それでもオレはやってない!


 ちょっと姫様、なんとか言ってください!

 オレ達、そんな事象になった事ないですよね!?

 ないって言ってください!


「お、おい、すぐにでも出したほうがいいのか?」

「落ち着いてください、そうですね、まずは名前でも」

「そうだな……私とクイーズの子が、デヘ、デヘヘエ」


 姫様はなにやらデレデレした顔でジッとカードを見つめている。

 駄目だ、姫様はすっかりポンコツ化している。

 いやホントにヤバイよ? こんな場面、エクサリーにでも見られたら……


「私がどうかした?」

「え、エクサリー! 何時の間に!」

「ちょうど今、着いたばかりだったんだけど、なんだかこっちから騒がしそうな声が聞こえたから」


 そうだ、リライフ! リライフという名にしよう! と姫様が叫んでいる。

 良かったですね、名前が決まったようで。

 いやいや全然良くないよ!


『出でよ! リライフ!』


 そんなオレの葛藤を他所にカードに描かれた赤子を呼び出す姫様。

 浮かびあがった赤子を慌てて抱く。

 赤子の目が開きニパッと姫様に笑いかけてくる。


 いやあ和む風景ですなあ。和んでる場合じゃないんだけど。


「どうやら女の子のようですよ」

「そうか……そうか、この私に子供が、それも……」


 なにやら涙ぐむ姫様。


「また赤子? エルメラダス姫様が呼び出していたということは姫様の子? んん? カードの中の誰が相手で……」


 おっとそれ以上はまずい。

 ちょっとエクサリーさん、あっちへ行きませんか?

 と言う間もなく、ハッとした表情でオレを見つめてくる。


「もしかしてクイーズ……」

「いやっ、違う! 確かにオレの子らしいけど、決してそのような不埒な真似は一切しておりません!」

「そんな……」


 ガクッと崩れ落ちるエクサリー。

 その瞬間オレの体が炎に包まれる。

 アチチ! アチッ、アチチッ!


「やめなさいホウオウ」

『いやだってコイツ、さすがに笑えないわよっ!』

「コイツじゃなくて我等が神でしょ。とりあえず皆さん落ち着いてください。まずはお坊ちゃまの言い分を聞きましょうか」


 さすがラピスえも~ん! 頼りになるぅ!

 カンカンと、どこからか取り出した木槌を机にうち付ける。


「それでは被告人、クイーズの証言をここに認めます」


 頼りにして……いいんだよね?

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