レベル210

「なんだかアポロが居なくなると広く感じるッスね」

「そうね……」


 近々、このアンダーハイトの国でライブがある。

 なので、それまでここで泊まり込む事に決めていた。

 昨日までは三人で泊まっていた部屋、二人になると急に広く感じる。


「ティニーはその、生まれたときからずっとアポロと一緒だったんだよね?」

「といっても、うちは下働きだったから、あんな事でもなければ遠くから見てるだけだったと思うッス」

「領主様もアポロの事を猫可愛がりしてたからね。まあ、その所為で、ちょっと人見知りになってたようだけど」


 最初の頃、アポロはまったく喋らなかった。

 今でこそ、多少はマシになったものの、ピクサスレーンに逃げてきた当時はほんとに苦労した。

 愛想も無いし、無口だし、何考えてるかまったく分からない。


 当時は二人とも困惑して、アポロを置いて逃げようかととも思っていたぐらいだ。


「ほんとにね、嫌われているのかとさえ思ってた。無茶ばっかりするし」

「でも、アポロはアポロでうちらを守ろうと必死だった訳ッスね」


 ダンジョンで絶体絶命の危機に陥ったとき、魔法が使えるアポロだけなら逃げ出す事が出来た。

 しかし、それをアポロは選択する事は無かった。

 始めて聞いたアポロの叫び声……


「二人は私の部下だ! いや友達だ!! 決して見捨てはしない!」


 必死になって迫り来るモンスター達に魔法を放つアポロ。

 私達二人は、その背中を見ている事しか出来なかった。

 サヤラの魔法銃は弾がつき、ティニーは剣が折れてまともに動けないほどの重傷を負っていた。


 そして遂にアポロの魔力も尽きる。


 最後にアポロは私達に覆い被さってくる。

 その時思った。

 ああ、この子は本物の貴族なんだな。


 私達を守ろうとする、ノブレス・オブリージュはここにあるんだなと。


「良く頑張りました、あとは私に任せてください」


 リーダーと知り合ったのはその時だった。

 狼型のモンスターが、アポロの背中に圧し掛かって首に向かって噛み付こうとしたとき、その狼の体が吹き飛ばされる。

 目の前には奇妙な耳を頭に生やした、一人の女性が立っていた。


「そういえばなぜ、アポロだけカードに入れたんスかね?」

「ん~、ヒットポイント? とか言うのが原因じゃないとすれば……好感度? クイーズさんに対する好感度が高かったから?」

「あっ、それなら納得ッス。うちもまあ、リーダーに対する好感度は高いと思うッスけど、アポロのクイーズさんに対するものに比べたら、月とスッポンッスしね」


 じゃあ私ももしかしたら……と呟くサヤラ。

 そしてティニーの方へ目を向ける。


「ねえティニー、あなたはクイーズさんの事をどう思っている? クイーズさんって、とってもかっこ良いと思わない。ティニーもほら、ちょっとは良いと思っているんでしょ」

「急にどうしたんスか? なんで謎のクイーズさん推し?」

「そりゃねえ、ティニーだけ仲間はずれはね……」


 サヤラにそう言われてティニーの頭に?が浮かんでいる時だった。

 コンコンと扉を叩く音がする。

 ティニーが扉を開けると――――そこには、悲壮感漂うアポロが一人で佇んでいた。


「えっ、どうしたんスかアポロ?」

「………………私は要らないって」

「ええっ、クイーズさんに追い出されたの!?」


 サヤラが急いで駆けて来る。


「…………24時間はついてなくていいって」

「「………………」」


 まあ、そりゃそうッスよね。と呟くティニー。

 良く考えればあたりまえの事。

 カシュアだって、ずっとべったりという訳でもない。


 冒険に出かけるときか、戦闘がありそうなときか。


 日常的にずっとくっついている必要はどこにもありはしない。


「え、えと……ま、まあ、ほら、ずっとついてると見たくないものまで見なくちゃならないしね!」

「そ、そうッスよ! トイレとか風呂とか、さすがに無理ッショ!」

「……こうして実体化すれば背中だって流せるし、トイレだって魔法で水をかけて乾燥まで出来る!」


「いや、それはどうッスかね……」


 決意を込めて握り拳をしているアポロに、ちょっとだけ引く二人。


(これぐらい愛情が濃くないと無理なんスかね?)

(さすがにこれは私でも無理かも……?)


 などと内緒話をしている二人。


 と、何やらアポロがキョロキョロと辺りを見渡している。


「どうかしたんスか?」

「……ん、どこからかリーダーの声が聞こえて来たような」

「あっ、それはアレじゃないですか。カード化された人達は念話みたいな事が出来るとか」


 そうかも知れない。と言ったアポロは目を瞑って何かに集中している。

 しばらくそうした後、アポロが目を開く。

 そしてこう告げる。


「……エルメラダス姫様のグリフォンが20レベルに到達した」

「へえ、じゃあカードがもう一枚増えたってことですね」

「確か姫様は、自分でカード化したいモンスターを持ってくるって事だったスよね」


 アポロは神妙な顔つきで頷く。


「……どうやら私達と同じ事を考えているらしい」

「「………………」」


 もう一波乱起きそうッスね。と呟くティニーであった。

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