レベル195

 扉が開かれる。そこからアンダーハイトの外交官が入って来た。

 が、一歩入ったところで足が止まる。

 まあ、気持ちは分かるさ。


 漆黒の鎧に包まれた、魔王のようないでたちの存在が、妖艶な美少女と屈強な獣人を左右に侍らせて座っている。

 そして、通路の左右には伝説級のブツが所狭しと並べられている。

 しかもそのブツは、ほとんどが呪われているという代物。


 それらの呪いを受け、通路の上空では禍々しい黒い渦が渦巻いていた。


 ハーモアが威嚇するかのように小さな唸り声を上げて、歯をむき出しにする。

 レリンちゃんはオレにしなだれかかり、妖艶な悪女を演じている。

 いったい何処で練習したのか、二人とも随分な役者だな……


 さらに背後には、真っ白な巨大なドラゴンが堂々と鎮座していて、インパクトは絶大だ。


「どうした、入って来ないのか?」


 オレはわざと低い声でそう言ってみる。

 なんとか気を取り直して再び歩き出す外交官。

 そのとき、バタンと背後の扉が閉まる。


 その外交官は慌てて後ろを振り返る。


 そこには、髑髏があちこちに装飾された鎧を着たダンディと、白銀の豪華な鎧を着たカシュアが扉の前に立っていた。


 それは聖魔を司る地獄の門番のようで、ここからは唯では出さぬぞ、という雰囲気を醸し出している。

 しかし、さすがは忍の国の外交官。

 そんな脅しにもめげずにオレの元へ歩いて来る。


「お初にお目にかかります、私は……」


 みなまで言わせず立ち上がったオレは書状を広げてブン投げる。


「色々小細工を噛ましてくれたようだな、こっちの大将はお冠だ! とっととソレを持って帰れ!」


 そう言うとオレはさっさとその場から出て行く。

 とりあえず伝えたぞ、後は野となれ山となれ。

 お待ちください! と後ろから声が聞こえるがガン無視だ。


 何か言われても、どう答えていいか分からないしな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「まったくとりあってくれなかった、という訳か……」

「はい、名乗りすら上げさせてもらえませんでした」

「お前ほどの男が後手に回るとはな……あのクイーズとかいう者は、たかが16の小僧ではないか?」


 アレは小僧どころか……邪神かと見紛う程の……

 案内された場所は、こないだ解放された古代王国王城アルバトリオンと瓜二つ。

 そこに並べられた物も、ほとんどが呪われているようなものばかり。


 もう、かの古代王国を壊滅せしめたのは、彼の者で決まりかと思われます。と悔しげに答える男。


 それは先ほどのアンダーハイトの外交官であった。

 彼に対するはアンダーハイト国王、ユベールハイノである。


「向こうには中々に狡猾な参謀がおるようだな。それが事実かどうかは兎も角、それを事実であるとお前に思わせた訳だ」

「っ、申し訳ありませぬ。……どういたしますかこの書状、とんでもない事が書かれていますが」

「再度交渉しようにも、その様子では望みが薄いな……」


 そう思うと本当にあの時、手を引いた事が悔やまれる。

 天啓のスキル保持者の可能性がある。という事で、持てる戦力の全てをつぎ込んで攫おうとした6年前の出来事。

 実際現れたスキルは天啓などではなく、モンスターカードと言う聞いた事も無いスキル。


 期待が大きかった分、落胆も大きい。


 たかがモンスターを使役できるスキルなど何の役にたとうものか。

 などとバカにして撤収させた。

 まったく、あんなカスな物に無駄な労力を割かされてしまったな。と当時はおおいに嘆いたものだ。


 奴隷に落ちたと聞いたときは、大嘘つきがバチがあたったのだろうと、ほくそ笑んだものだが……まさかその所為で、ここまで追い詰められる事になろうとは。


「しかし初出のスキル、何が起こる分からない。あのまま攫うのがベストな選択だったのじゃろう」


 どこからともなく第三者の声が聞こえる。

 それは、どこか嘲笑しているかのような雰囲気だ。

 その声はさらに続ける。


「お主ほどの者でも感情に支配され、間違う場合もあると言うわけじゃな」

「……楽しそうだな。この国が落ちれば、お前達とて無事に済むとは限らないのだぞ?」

「ホッホッホ、だからこそ、お前達に力を貸してやろうとしておるのではないか」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「えっ、条件を全て呑むだって?」

「はい、使者の者がそう言って来ました」


 うさんくさいな……

 あんな圧倒的に不利な条件を一日もかけず決定出来るものなのか?

 どう思うラピス。


「戦って奴隷となるか、戦わずして奴隷となるか、の違いですしね。ならば後者を選ぶ可能性もあるでしょう」

「それにしては決断が早過ぎやしないか?」

「早い方が自分たちに利点があると判断したのではないでしょうかね」


 ふむ……

 今ならば、交渉できるのはオレしかいない。

 条件を呑むと決まった以上、オレが向こうの王城へ向かい調印を行わなければならない。


 骸骨も、こんなに早く決まると思ってなかったからヘルクヘンセンに帰してしまったし……


「その使者に証文を持ってこさせばいいんじゃないのか?」

「さすがにこのような事を外交官経由では無理です。向こうの王に直接会って手続きが必要になります。ただ、呼び付ける。という手もありますが、来ますかね?」


 どうやら、なんとしてでもオレと交渉したいらしい。

 いやだな、また腹黒連中を相手にするのか?

 もうラピスにブン投げるか?


「ではそのように。何、心配は要りませんよ、お坊ちゃまにとって最大限の利益を勝ち取ってきます」


 お前の言う、オレにとってって言う奴が、オレを追い詰めるパターンが多いのは気の所為かなあ……


 よし! ラピスに追い詰められて本気を出すか、今、自分から本気を出すかの違いだ!

 今回はオレが赴こう。

 向こうさんから、なめられっぱなしって言うのも気に障るしな。


「危険ですよ? なんでしたら、サウの幻影で私がお坊ちゃまに化けて行っても……」

「いや、今回はオレ一人で向かう、オレなら与し易いと思われ続けるのも癪だ」


 三種の神器に、緊急回避用の音の世界まである。

 いざとなったら、ギターちゃんに頼んで音の世界へ行けば追ってくることは不可能。

 ここは大物ぶって堂々として行くのがいいだろう。


「また帰って来れなくなったらどうするんですか?」

「反省しているようだし、もうそんな事にはならないだろ」

「どうも信用がおけないんですよね……ギターになると心も読めませんし……」

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