レベル182 『モンスターカード!』で、ゲットしてみたら二人は永遠の愛を誓います。

「と、いう事なんで、エクサリーとの結婚を許してください!」

「私も、私も……クイーズがいい、クイーズ以外は……考えられない」


 あれからエクサリーとおやっさんを連れて、祖父母の居る場所へ特攻を掛けた。

 地元の竜王を倒し、剣聖まで退けたんだ、これ以上何を望む。

 きっとオレは、おじいさんの中でストップ高に違いない!


 となると、今しかないと、結婚の許しをえる為に凸ってみた、そしたら見事に色々折れた。


「何か勘違いされているようですが……我が商会に、英雄や貴族は必要ないのですよ」

「えっ?」


 なんでもおじいさんの話では、物事にはそれ相応の器というものがあるという。

 小さな商会に、貴族や英雄などが入り込めば、あっという間に崩壊してしまう。

 ましてやオレのような大貴族、婿入りなんかされた日にゃ、利権やなんやと引っ掻き回されること必須。


 英雄だってそうだ。


 英雄と成るほど手柄を立てた、という事はだ、英雄となるような出来事があった訳で、そんな出来事って奴は、たいがい多くの人に影響を与えている。

 そしてその影響、いい事、ばかりだとは限らない。

 影響が大きければ大きいほど、深い闇もまた発生する。


 戦争で手柄を立てた場合、自国にとってはそりゃ英雄だろう。しかし、敵国にとっては悪魔の所業でしかない。


「どれだけ人から敬われているか、は、どうでもいいのです。どれだけ人に憎まれていないか、それこそが商売人にとって大事なことなのですよ」


 ガーンってショックを受けるオレ。

 言われて見ればその通りだ。

 オレがエクサリーと結婚する事でエクサリーを危険にさらす。


 心当たりがありすぎる!


「お、オレの今までの行動は……」

「見事に逆効果だったって事ですねぇ」


 今回、剣聖を退けた。それは即ち、この国に喧嘩を売ったも同然。

 ラピスが勝った事で良く思わない連中も居るだろう。

 ああああ……オレは一体なんて事を……


 ふとラピスを見やる。ついっと視線を逸らす。もしかしてコイツ……


「ならば私は、商売人を辞めてもいい!」


 と、突然、エクサリーが立ち上がる。


 なんの為に商売を行うのか?

 お金? そんなものはクイーズの嫁となればいくらでも入ってくる。

 名声? それだってクイーズは持っている。


 私が商売人を目指したのはそんな物の為じゃない。


 自分の行動で誰かが喜んでくれたら嬉しい。

 自分の行動を誰かに褒められると嬉しい。

 そして、誰かに自分を愛してもらいたい。


「その誰かは、私にとってクイーズなんだって、他の誰にも埋める事は出来ない。クイーズ以外の他の誰かで、そんな充実感は決して得られない」


 たとえこのまま商売人を続けられたとしても、クイーズの居ない世界では、ただ惰性で続けるだけとなってしまう。


「え、エクサリー……」


 か……、感動した!

 エクサリーがそこまでオレの事を思ってくれていたなんて!

 くっそ、何が何でもエクサリーを危険にさらしてなるものか!


 どんな敵が来ようとも、必ずオレが蹴散らせてくれる!


「それで、商売人を辞めてどうするつもりだ」


 だがおじいさんは、そんな熱く語るエクサリーに静かに問いかける。

 そんなのオレが養って、


「ちょっと黙っていてください」


 はい。

 なんだこのじいさん、すげえ迫力。

 エクサリーの迫力は、もしかしてこのおじいさん譲り?


「そんなもの分からない。私はずっと商売人に成る事を目指していた」

「ならば、」

「もしそれが駄目なのならば考える。考えて悩んで相談して、それでも商売人がいいと思うかもしれない」


 だけど今だせる答えは唯一つ、私は決してクイーズの傍を離れられないっていうこと。


 それを聞いておじいさんはじっと目を瞑って考え込む。

 おやっさんは一言も発しない。

 ただじっと腕を組んでエクサリーの話に耳を傾けている。


「中々話は平行線のようだね!」


 なぜかそこにカシュアが割り込んできた。


「ようは貴族や英雄が駄目だって事だよね」


 そう言ってオレの方へ視線を動かす。


「君はモテモテだからね! 君を巡って色んな人が努力をしている」


 エクサリー君は見た通り言うまでも無いだろう。

 アポロ君も君の為に毎日魔法の練習を怠らない。

 姉上もまぁ、グリフォンを買い与えようとするのはちょっと引くけど、それだけ君を想っているって証拠だ。


「今度は、君が努力する番じゃないのかい?」


 なるほど、その通りだな。


「カシュア、貴族や英雄の位を放棄するのはどうすればいい?」

「はい、そこまでです!」


 と、ラピスが手をパンパンと叩きながら立ち上がる。


「まったくカシュアは、いつも、いらんでいいことばかり……コホン」


 おもむろにモンスターカードを机の上に広げるラピス。


「これだけの戦力が、エクサリーを、あなた方の商会を、お守りするのですよ。何の不満があるというのですか」


 この私の実力を知らないと言いませんよね? なにせ目の前で剣聖を打ち倒したのですから。と続ける。

 えっ、あの会場、おじいさん達も来てたの?


「そのスキルについては調べさせてもらった。確かにとんでもない戦力じゃ、じゃが、それはそこの御仁が生きている間だけのこと」


 子が生まれ、孫が生まれ、そうなったとき、その戦力を急に失って、その子や孫はどうなる。

 万が一、何かの手違いで命を失ったらどうする。

 人の命に絶対は存在しないのじゃからな。


 そう問いかけてくるおじいさんにラピスが答える。


「まだまだ秘密にしておこうと思っていたんですけどね、お坊ちゃまが居なくとも、カードは消えませんよ」

「「えっ!?」」


 オレとカシュアが声を上げる。

 どういうこと?


「お坊ちゃま、そのスキル、どういった時に発動されてますか?」

「ん、スキルの発動? カードを呼び出すとき……だけ!?」

「そう、お坊ちゃまの『モンスターカード』のスキルは、カードを呼び出すだけなのです」


 呼び出した後は……魔道具として扱われる!?

 そういえばそうだ! 聖皇都の宝物庫ダンジョン、スキル封じがされていた状態、カードは呼び出せなかったが、持っていたカードは使えた。

 呼び出していないカードについては消滅するかもしれない、でも、既に呼び出しているカードについては、消えないって事か!?


「ただし、モンスターカードのスキルが無くなれば、カードが呼び出せなくなるので新しいモンスターをゲットすることが出来ませんがね」


 それも、無地カードをいくつか取り出しておけば……

 なるほど、オレのスキルは、モンスターカードという魔道具を作り出すスキルだった訳か。

 ……お前、前にオレが死ぬと消えるって言ってたよな。


「当時はお坊ちゃましかカードを操作出来る権利がありませんでしたからね。しかし今は……」


 カード統率のスキルを得たことにより、ラピスもカードの操作が可能となった。

 カード譲渡システムが実装されたおかげで、アスカさんやカユサルなども譲渡されたカードについては使用できる。

 即ち、オレとラピスが同時にやられない限りは現状どおりモンスターカードが使える。


 オレとラピスがやられても、カユサルが生きていれば、セレナーデさんとソーサーは無事だという事に。


 ……今度こそ他に隠している事はないだろうな?

 オレのジト目の視線を避けるようにコホンと一つ咳払いをすると、おじいさんの方へ向き直る。

 そして、何事もなかったかのように笑顔で手を広げて語る。


「あなた方にとってこれは凄いチャンスなのですよ! ただ首を縦に振るだけで、これだけの物を手にすることが出来るのですから!」

「なんか詐欺師の商法みたいになっているぞ」

「シッ、お坊ちゃまはいったいどっちの味方なんですか」


 と、おじいさんも立ち上がる。


「あなた様の言うとおりだ。とんでもない戦力、ただ、それだけでもない。あなた様のような狡猾なお人が居れば、ちょっとやそっとじゃ揺らぐことはないじゃろうな」


 そう言って、ニヤリと笑いながら手を差し出しだす。

 ラピスがその手を取って答える。


「あらいやですね、私はそんな狡猾な女ではありませんよ」


(((よく言う)))


 ラピス以外の全員の心が一つになった瞬間であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「うゎぁあ……すごい眺め……」


 地面に吸い込まれるような夕日の中、ドラゴン(大)に変身したロゥリの背中に乗ってエクサリーと二人、ドライブと洒落込む。


「ありがとうエクサリー、オレ、あんな風に言ってくれて感動したよ」

「ううん、いつもクイーズからばかりだった、本当は私から告げなければいけなかったのに」


 二人、そう言って互いに黙り込む。

 自然、額と額がごっつんこ。

 真っ赤な顔で見詰め合う。


「エクサリー、実は受け取ってもらいたい物があるんだ」

「うん」


 そう言ってオレは一枚のカードを取り出す。

 それはあの、竜王ホウオウが入ったカード。

 ラピスしか攻撃出来なくなったときに、何気なくクリスタルカードで見たもの、それは……


『出でよ、エンゲージリング』


 燃えるような、真っ赤な色をしたダイアモンド、その宝石が乗った、小さなリング。

 それは、エクサリーの左手の薬指にぴったりなサイズ。

 これだけは、どうしてもオレの手で手に入れたいと思った。


「エクサリー、オレと結婚してください」


 エクサリーの瞳から一滴の涙が頬を伝う。

 また先に言われちゃったね。って言って笑うエクサリー。

 そんなエクサリーに目を奪われる。


「クイーズ、私と結婚してください」

「もちろんだとも!」


 そして二人の影は、巨大なドラゴンに見守られて、ゆっくりと重なっていくのであった。



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レッドダイヤモンドには永遠の命という意味が込められています☆

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