レベル153

「で、どうなんだその命名ってスキル」

「どうと言われましても……」


 あれから暫く経ったんで、エンペラーのスキル、命名の性能をラピスに聞いてみる事にした。


「そうですね……現れなさいリーフ!」


 ラピスがそう言った瞬間、部屋の隅の植物から妖精が飛び出してきた。


「こないだ頂いたニンフですが、名前が無いようでしたので命名のスキルで名前を付けてみました」

「ふむふむ」

「そうしたら如何した事か全身が虹色に」

「ほうほう」

「どうやらニンフを配下に従えたようです」

「おお~!」


 なるほどな、命名のスキルで名前を付けると、その相手を支配下に置けるってことか。

 なかなか凄そうなスキルだな。


「これで、どんな命令でも聞くようになりました」

「えっ?」

「どうやら精神支配系のスキルのようですね」


 コワッ!

 やっぱ地雷ルートじゃないかそっち!


「な、名前をつけるとか滅多に無いだろ? やっぱスーパースターにチェンジしませんか?」


 ちょっと腰が引けて敬語になるのも仕方ない。


「お坊ちゃまの世界では確か……洗礼名なるものがあるそうですね?」


 ……宗教でも始める気か? 聖母なんてスキルも持っているし。


「そうですねえ……邪神教とか作っちゃいますか? 各国の重鎮を誑かし、このスキルで持って……」


 なにやらラピスが黒い笑いを堪えている。

 やめろ! 本当にロゥリに退治される未来が訪れたらどうする!?


「まあそれは冗談ですが、色々と手は広げていこうと思っています」


 広げないで!

 ラピスさん! お願いです! スーパースターに成りましょう!


 と、なにやらズゥゥウウンと言う鈍い音がし、ちょっと地面が揺れる。

 地震だろうか?

 急いで窓に駆け寄ると……大神殿の方から煙が立ち昇っているのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「なんでもカシュアちゃんにね~、聖剣を渡すべきだっていう人が現れてね。神獣さまが怒ってブッ飛ばしちゃった」


 それから暫く経ってやって来たユーオリ様が、お茶を啜りながらそう言ってくる。

 大丈夫だったんですかその人達。


「人間はまあ、大丈夫だったんですけど、神殿の一部が崩壊してしまいましてね」


 そのお方達は随分怖い思いをしたのでしょうなあ。

 で、なんでそんな話になったのでしょうか?


「そりゃ聖剣と言えば聖皇国、聖皇国と言えば聖剣と言われるぐらい有名だからね。聖剣の担い手が現れた、なんて言ったら国中大騒ぎよ~」


 全然、騒いでないじゃないですか?

 するとユーオリ様、チラッとカシュアの方を見ると、


「聖剣を握るのには神獣様に認められないと駄目ですし、カシュアちゃんじゃちょっと……」

「そういう話は本人の前でしないでくれないかな!」


 まあそれに、今は神獣様ご自身が担い手になったので逆に二人もいると困る事になりますしね。ってズズズッとお茶を啜りながら言う。


「変わったお茶ですね? 最初は、何この黒い青汁はって思ったんですけど、独特の風味があって癖になりそうね」

「葉っぱじゃなくて豆から絞っているんですよ。眠気覚ましにリラックス効果、美容と健康にも良くて、ダイエットにも役立つんですよ」


 うん、どうしても欲しくなったのでお料理セットで作って見た。

 とにかく各地から豆を集めてみると、お料理セットがコーヒーメーカーに変わる奴がいくつかあったのだ。

 まあそんなに詳しいわけではないが、そこそこ再限度が高い、というより、結構やみつきになりそうなものが出来上がった。


「ほんとに!? 良薬は口に苦しというけど苦いだけの事はあるのねえ。ちょっと子供には、きつそうだけど」


 そういった時はコレ!

 ミルクと砂糖を混ぜればあら不思議!

 あれだけ苦かったコーヒーが、急にまろやかな口当たりに!


「あら、おいし~! これはほんと、癖になっちゃいそうなお味ね!」


 そうして一息いれてカシュアに問いかけてくる。


「それにカシュアちゃんも、別に聖剣欲しいって訳じゃないんでしょ?」

「勿論だよ! ボクには自前の聖剣があるしね!」

「ん?」


 ちょっと小首を傾げるユーオリ様。


 あれ? カシュアが聖剣を持ってる事を気づいてない?

 いやでも、王様の悪霊を払ったとこを見てるよな。

 もしかして、ちょっと性能のいい魔法剣ぐらいにしか思われて無かったのだろうか?


「まあ、向こうの言わんとすべき事も分かってはいるんですけどね。神獣様の件は未だどこにも洩らしていませんし、聖剣の担い手が現れたのに手をだしていない私達を不思議がっているでしょうね」


 そう言えば、と話題を変えて来る。


「カシュアちゃん、誰かに襲われたりしていない?」


 なんでも、ピクサスレーンから暗殺者が紛れ込んでいると垂れ込みがあったらしい。

 そこで調べて見ると、カシュアに良く似た、というよりカシュア以外に居なさそうな人物が何度も殺害されているという。


「殺された現場を見た人が複数いるのよねえ。しかも別々の日時で。でも死体はどこにも見当たらないし」


 どういう事かしらねえ、って流し目をしてくる。

 致命傷を受けてカードに戻った瞬間を目撃されたか……

 だからお前、あれほど外出を控えろって言っただろ。


 えっ、言って無い? いい訓練になってるなって言ってた?

 ……いやだって、モンスターを倒していないのにレベルが上がったりしてたからさあ。

 どうしましょうラピスさん。


「まあそれは企業秘密と言う事で。ちなみにそちらの神獣様も同様です」


 そうですか……聖剣の担い手のスキルが係わっているのかしらね? ってあまり納得がいってない風である。


「そうだ、ユーオリ様! そのお茶の作り方を教えましょうか?」

「えっ、ほんとに!? でも、そのお料理セットがないと出来ないんでしょ?」

「そんな事ないですよ。基本は茶葉とそうそう変わりません。問題は豆のブレンドぐらい」


 あら、それは楽しみね! って満面の笑みで答えてくる。

 ふう、これでカシュアの話題は無かった事に……ならないだろうか?

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