レベル131

「そっ、そんなバカな! 僕のスキルは決して、君を才能ある人物だと指し示していない。才能が無いのに、ここまで強くなれるものなのか!?」


 えらい言われようだな。


「何時までスキルに頼っている。その目は、その耳は、一体なんの為に付いているんだ?」


 才能がある人物が決して成功しているとは限らない。

 もっと世の中を見て見るんだな。

 成功している奴は、たいがいが凡人だ。


 凡人であるからこそ、人をうまく使う。道具をうまく使う。


 人生に置いて成功を掴む為には、ひとりよがりじゃあ決して成り立たない。

 数多くの人に支えられ、数多くの人を支え、そうやって繋がったものこそが、天才を超える力となる。

 有る意味それも才能であると言えない事は無いが……あんたのスキルじゃ、それを判断出来ないわけだ。


 それは人の性能ではなく、性質だからな!


「この僕が……スキルに頼り過ぎていたと……いう事なのか?」


 そう言って愕然とした表情で片膝を付く。


 人の才能が分かるが故に、個の才能だけで判断していた。

 それに、たとえ天才であろうとも、それを形に出来なければ凡人以下。

 可能性だけ有っても、努力しなければ伸びはしない。努力する為には想いも重ならなければならない。


 絵を描く才能があっても、絵を描く事が嫌いな奴だって居る。

 戦争に打ち勝つ才能が有るからと言って、戦争に行けと言われて行く奴は少ない。

 やりたい事をやりたい奴が居て、そいつにその才能があれば伸ばしてやればいい。


 導き手ってそういう事だろ?


 才能があるからと言って無理強いをしているのは、導くのはではなく、ただレールに乗せようとしているだけだ。


「それを人は、手抜き、って言うんだぜ」


 それにな、努力する天才の傍には、必ずと言っていいほど、努力させる天才が存在している。

 それは師であったり、伴侶であったり。

 そう言った者に支えられ、天才は伸びる。


 努力した天才が落ちぶれる事だってある。

 才能は変わってないのにな。なぜだろうな?

 そういった時は大概、近くに居た、誰かが居なくなっている。


 努力させる天才を失った、普通の天才の末路は悲惨なものだ。


 導き手になりたいならば、そんな努力させる天才を目指さなければならない。

 あえて言わせてもらえば、あんたには導く手段を持っていても、導き手としての才能は無いって事だな。


「僕には、……このスキルを持っている資格がないという訳か?」

「そこまでにして頂きたい!」


 と、そこへ、神官風の女性が進み出てくる。


「ゼラトース家のクイーズ様、ようこそわが国、エンテッカルに来て頂けました。心より、歓迎いたします」

「歓迎? オレはお呼ばれじゃないんじゃなかったのか?」

「それは新家の貴族の話。旧家の貴族である私には、貴方様こそをお待ちしていましたわ。なにせ、貴方様が今日ここへ来ていただける事により、我がパートナーが人として成長することが適うのですから」


 隣で方膝を付いた御仁が、まさかっ! この結果が視えていたのか!? と呟いている。


 視えて、ねえ……予知か予見のスキル持ちか……

 その女性は自己紹介をしてくる。

 なんと、旧貴族、しかも旧王族筋に当たるお方なんだと。


 名は、フロワース。さっきまで戦っていた御仁のサポーターであるという事だ。

 さっきまでオレと戦っていた英雄の導き手の名はモブディ。

 なおこのモブディ、次期王様候補、第一位なんだとよ。


 そして今回の事は、すべてこのモブディの暴走の所為であり、我々は決して他国に戦争を仕掛ける意図は無いと言ってくる。

 こいつはまた、随分、腹黒そうなお嬢様だな。


「うまく行けば、アポロの力を手に入れられる。ダメならそいつに全部おっかぶしって所か?」

「あらいやですわ、ワタクシも手を尽くしたのですよ? しかしこの御仁、中々人の言う事を聞かないので困っていた所ですの」


 そこへ、振って沸いたようなチャンスが来たようなので利用させて貰っただけですわ。などと続ける。


「それは予知のスキルかな?」

「似たようなモノですわ」


 ホホホと口に手を当てて笑う。

 顔は笑っているが腹の中じゃどう思っている事やら。


「それでは改めて、我等が首都にご招待致しましょう」

「そいつはありがたいな。でももう、カシュアやアポロが行く必要は無いだろう」

「しかし、どなたか一人は来て頂けませんと、取り消しの手続きもできませんわ」


 だったらコイツに頼もうじゃないか。


『出でよ! 骸骨王・ダンティ!』


 腹黒同士、気が合うんじゃね?

 ついでにラピスも召喚しておく。

 えっ、私も腹黒サイドなんですかって?


 なに言ってんだおめえ、お前から腹黒とったらなにが残・・ヒッ! 冗談です! 自分、護衛として呼び出しました! 信じてください! ヒィイイ!


「腹黒とはなんだ?」


 ラピスにボコボコにされかかっているオレに、モブディがそう聞いてくる。


 腹黒ってのはな、表面上は穏やかそうなんだが、心の中じゃ悪い事ばかり考えている奴の事を言うんだよ。

 えっ、心当たりある?

 毎回、言ってる事とやってることが違う。


 そりゃ典型的な腹黒だな。


「ハラグロワース……」

「ブッ!」


 おまっ、笑わすなよ!

 ウォッ! コワッ!

 今一瞬、フロワースさんの顔が地獄の死者のような感じに。


「先ほどまで戦っていたのに、随分仲がよろしそうですわね」


 そう言ってゆっくりとこっちに歩いて来る。

 ちょっ、おまっ、オレの背中に隠れるなよ!


「モブディ、分かっていますか? 今回の失態、あなたは王候補第一位から堕ちる事になるでしょう。今後はその挽回の為に、今以上に働いてもらわないといけませんのよ?」


 これが氷の微笑みと言う奴か……

 なにやら笑っているのに、周囲の空気が凍り付いているような気がする。


「しかし、その二人、いったいどこから? 時空魔法? そんな芸当まで出来るのですか?」

「予知で知っていたんじゃないのか?」

「予知と言っても万能ではないのですよ。それに……貴方の事はなぜだか全然読めませんし」


 それはたぶん、このカードが今までこの世界に存在していなかった物だからだろう。

 存在しない物までは予知出来ない。

 カードを使って起こす未来は視る事が出来ない。


「ん、だったら今回の結果だって読めなかったはずじゃ?」

「貴方の未来は知る事が出来ずとも、このモブディの未来なら知る事ができますからね」


 なるほどね。


 じゃあとりあえず、その二人連れてってくれ。

 えっ、オレは行かないのかだって? 遠慮しとくさ。

 腹黒は腹黒同士、腹を割って話してくれ。


 出てくる物については責任は負えない。

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