レベル114

「どうですかお坊ちゃま、なんか良さそうなのがありますか?」

「う~ん、ここらじゃレア種が少ないからなあ……」


 ただいま絶賛、クリスタルカードで目ぼしいモンスターを調査中でござる。

 やっぱビックフットをオートバイにするかな? いやでも、燃料がないと走らないよなあ……

 ガワだけあっても仕方ないし……


「やっぱり、もっと強力なモンスターが居る場所にいかないとダメですねえ」

「しかし、遠出するならカードを増やしてからの方がいいだろ?」


 ん、あそこに居るのはアポロ達じゃないか? お~い。


「今日も修練か?」

「……クイーズの期待に応えたい。だから頑張る」


 アクアも両手を前に握りこぶしを作ってウンウンと頷いている。

 ええこ達やなあ。おっ、もう16レベルになっているのか早いな。


「ほら見てください、私達の銃を見てて覚えたのかこんな事も出来るようになったんですよ」


 サヤラが一本の大木を指差す。

 アクアの周りに水滴が幾つか浮かび上がり、それが一斉に大木に向かっていく。

 バシバシバシと当たって結構な太さの枝が折れる。


「水滴を弾丸のように飛ばしているのか?」

「そうッス!」


 水って意外に硬いからなあ。分散されないのであれば、そこそこの威力が出るのも頷ける。

 とはいえ、アクアの攻撃力は他の奴等に比べればかなり劣る。

 カードの攻撃力ゲージの伸びも微々たる物だ。


 もっと高度な魔法を覚えれればいいんだが、所詮は水。

 魔力だってそんなに高くはない。

 使える魔法だって限られてくる。


 と、なると、アクアの特徴である、自由に作り出せる水をもっと活用するしかない。


 水を壁にして敵の攻撃を防御するとかどうだ?

 確か水中で銃をぶっ放しても、1メーター進むかどうかって聞いた事がある。

 それだけ水というのは衝撃を受け止めやすい。


「…………やってみる?」


 コクコクと頷くアクア。

 水の利点は流体であるという事。

 固体ならば、ただ一点にダメージが集中すれば意外に脆い。

 だが、流体であれば、攻撃に合わせて幾らでも形を代え、威力を原子レベルで分散できる。


 水を自由に操れるアクアならば、そこそこの期待が出来るのではなかろうか。

 アクアが作った厚い水の層に向かってアポロが炎の魔法を当てようとしている。

 ん、ちょっと待てよ。冷たい水に高熱の塊をぶち込んだら確か……


「おい! みんな伏せろ! アクア、全員に防御!」


 オレはアポロ達三人に飛びついて無理やり地面に押さえつける。

 次の瞬間! 辺りに爆音が鳴り響く。

 もうもうと真っ白な煙に包まれるオレ達。


 暫くしてその煙が晴れていく。

 ゆっくりと頭を上げた正面にアクアが居て、水の壁をドームのようにして作っていた。


「い、いったい何が?」

「…………私の所為?」

「いや、あのな、これはな……水蒸気爆発って言うんだ」


 水蒸気爆発。それは、液体で有る水の中に高温の物質が入った時、熱せられて気体で有る、水蒸気へと変化する現象をさす。

 なんだ普通の事じゃね。って思うだろ? だがそれが、一瞬で数千倍にもなるとしたら?

 一片30センチの正方形の水。それが一気に30,000センチ――――30メーターに膨張する。


 その威力は山の地形を変え、一つの工場を吹き飛ばしたと言う。


「こ、怖いッスね……」

「……そういえば……川に炎の魔法をぶち込むと激しい水柱が立つ」


 しかし……コレ、武器として使えないかな?


「…………使える、と思う」

「実際に使っている人とかもいそうなもんだが、どうなんだろな」


 えっ、水と火の魔法を同時に使用できる人はほとんど居ない?

 それに、アクアのように空中に大量の水を浮かせておく、みたいな芸当は出来ない?


「……水を作れば落ちていく。水は意外と重いし」


 落ちる前に飛ばすぐらい。なんだと。

 なるほど、コレを武器として使えるのは、今のとこアクアぐらいしか居ないって事か……

 まあ、誰でも使えるって言うなら、魔法使い、危険すぎて近寄れないわな。


「だが、気を付けろよ。ほんの小さな塊でも結構な威力になる。本気でやれば、山をほんとに吹き飛ばせるというからな」


 いやマジで。コレは凄い武器になるのではないだろうか?

 もしかしたらドラゴンすら目じゃないかもしれない。

 水の量を増やせば増やすほど、無限に威力を上げれるのだったか? それ水爆だっけ? まあ、似たようなもんだろ。


 いいかアクア、水蒸気爆発をする時は必ず、アポロ達に水の防御をしておくこと。

 なにせ危険なのはその膨張する水だけではない。水蒸気と化したその空気はかなりの高温である。

 コクコクと頷くアクア。


「…………クイーズ」

「なんだ?」

「……もっとモンスターが多い所へ行きたい」


 確かにな。これは範囲攻撃魔法だ。一匹一匹を片付けるには向いていない。


「ならばいい場所がありますよ」


 ラピスが木の枝で地面に簡単な地図を描いていく。


「ここが以前、戦闘があった鉱山で、こっちがドワーフの村。そしてコッチへ行くと……」


 ドワーフの村から更に北に線を引いて行く。

 そしてざっと丸い円を描く。


「この辺りがこないだ襲撃を掛けてきたオーガの群れが居る所です」


 鉱山の安全の為にも一掃しときませんか。と言う。

 いやしかし、そうなるともう戦争だろ?

 鉱山がある国と先に話をつけとかないとまずい気がするなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る