レベル103
「ヘイヘイ旦那、もしかしてクイーズって名前じゃねえッスか?」
店が忙しくて来れなかったおやっさんにお土産でもと思って、観光がてら町をブラブラしていた所、一人の少年に呼びとめられる。
見ると随分薄汚い服装で、首には奴隷のチョーカーまである。
こんな所で奴隷の知り合いなんていたっけか?
いや、そういやここの先には鉱山があって、売れ残った奴隷は、そこに送られると聞いた記憶がある。
奴隷時代の知り合いか? しかし、こんなチャライ奴は居なかったような気がする。
「ああ、もしかしてピクサスレーンの奴隷商で一緒だった……」
「やっぱりそうッスか! いやあ、危機的状況なのに、のほほんとしてる雰囲気がそっくりだったから、もしかしてと思ったんスよ!」
お前はオレをディスってんのか?
「オレ、オレ、オレッスよ!」
「お前はオレオレの詐欺の人ですか?」
「レンカイアっすよ! ほら一緒に叩き売りルームに居た!」
えっ、レンカイア?
いやいやおめえ、レンカイア? あの融通が利かなさそうな貴族のお坊ちゃんだった?
「そうそう、そうッスよ! とうとう売れ残って鉱山行きッスよ、オレッチ」
いや確かに、アイツ売れ残るだろうとは思っていたけど……少なくとも、オレッチなんて言う奴じゃなかったような気がするのだが。
自分は偉い貴族の長男だ、いずれ家督を継ぐこの私に、このような真似をしてただでは済まさん!
などとか言って、よしゃいいのに奴隷商やお客に食いつく始末。
奴隷にされた時点で、貴族だなんだと騒いでもどうしようもない。
自国ならともかく、他所の土地で敵国の貴族だなんて名乗るは自殺行為だ。
恨みを持ってる奴が居れば、下手をするとその場で首ちょんぱだ。
オレ達を扱っていた商人は、まだましなほうだったから良かったものの、下手をするとおめえ、口減らしにこっそり埋められてたかもしれないんだぞ。
「そうッスね……あのころはオレッチもまだ若かったんスよ」
まあ、当時のコイツの気持ちも分からない事もない。
貴族のような豪勢な暮らしから、一日2食、具なしスープに落ちるわけだ。
プライドだってあるだろうし、そうそう認められる訳がない。
奴隷商にとっても、そんな貴族を扱うのにはデメリットではあるのだが。
あいつらが厄介な貴族枠を設けるのには理由がある。
それはスキルだ。
貴族の子供はスキルを持っている可能性が高い。
子供なら、まだ性格の矯正もたやすい。
奴隷商は独自のスキル解放ルートを持っている。
攫った子供のスキルを解放して高く売るって寸法だ。
しかし、中にははずれもある訳で……
オレのようにはずれスキルだと思われたり、レンカイアの様に……スキルを持っていなかったりした場合は、ただの厄介物にしかならない。
そういった奴等は叩き売り部屋に入れられて、半額や、二束三文で売られる事になる。
そして最後まで売れ残ったら鉱山行きだ。
「しかし兄貴、奴隷から解放されたんスか?」
「ああ、恩赦がある戦争に参加してな」
「すげ~ッスね! やっぱハズレでもスキルがあれば違うんスね!」
おいこら、何がハズレだって?
「しっかし、危機感が無いのはあいかわらずッスねえ」
どういう意味?
この町は旅行客が多いので治安には力を入れている。
ただしかし、治安に力を入れなければならないっていう事は、それだけ旅行客が狙われている事の裏返しでもある。
だと言うのに、綺麗なおべべを着て、護衛も連れず、のほほんと観光している客が居る。
そりゃもう、攫ってくださいって言ってるようなもんだべ。
みたいな事を言われる。
言われて見ればその通りだ。
ヘルクヘンセンでも、そんな、のほほんな気分で実家を出たから盗賊に攫われたわけで。
うん、学習してないね。
しかも今は旅館の浴衣姿。完全な丸腰でござる。
いかん、前世での治安の良さに馴れきっている精神が未だに抜けきれていない。
「ただ、さっきまでは護衛がちゃんと居たんだぞ?」
「どこ行ったんスかその護衛?」
いやなんか「うまそうな匂いがする」とか言ってどっか走って行った。
帰って来ないなカシュアの奴。
またラピスにどやされるぞ。
「なんでそんな護衛雇ってるんスか……」
呆れたような表情でオレの方を見てくるレンカイア。
雇っているというか、憑かれているというか……
一応、本職の護衛役の方もいるんだが、せっかくの休日、兄妹仲良く過ごしてもらいたい訳で。
「兄貴は相変わらずッスね」
なんだよその生暖かい視線は?
それに、護衛なんてオレには必要ないんだぞ!
なんたってオレは史上最年少のドラゴンスレイヤー!
トリプルSなダンジョンだってクリアして、スケルトンロードすら倒した実力の持ち主なのだからな!
「へえ、凄いッスねぇ」(棒)
信じてないな?
いや、信じられないのは当然かもしれないけど。
「まあ、その話はおいといて、ここで会ったのも何かの縁だ」
オレが実家の方へ連絡を取ってやろうか?
それか一旦、オレが立替えて身請けして、実家に送るとか。
「…………いや、いいッスよ」
それまで陽気だったレンカイアの顔がふと曇る。
それも一瞬の事ですぐ元に戻る。
「確かに炭坑夫はキツイ、汚い、危険の3Kッスけど、国が雇い主ッスからね。奴隷と言っても給金が出るし、いい鉱石が取れると、こうやって休みだってくれる」
それにもうオレッチは貴族じゃないッスから。と続ける。
何かあったのかな?
まあ、何かなければこうも変わらないか……
「そんな事より、兄貴のスキルってモンスターを使役する事が出来るんスよね? なんかすげーモンスターでも手に入れたんスか?」
ん、ああ、まあ、居るよ色々と、凄いのが。
えっ、見せて欲しい?
ん、ああ、まあ、……どうすっかな?
なんか、どいつ呼び出しても期待を裏切ってしまう気がする。とりあえず、
『出でよ! ラピス・オブ・アイリスブラッド!』
ええ、もう、そりゃしこたま怒られましたわ。
街のど真ん中でスケスケのレオタード姿で登場。
衆目を集めるのなんのって。
でもお前、昨日はすっぱだかで登場したじゃないか?
えっ、見せるのと見られるのは違う?
何が違うんだよ?
えっ、護衛はどうしたかだって? いや、あいつ即効ではぐれた。
ちょっと折檻して来ます。って角が生えたようだ。なむなむ。
「あ、兄貴、確かに凄い、凄い露出……えっ、モンスター?」
うん、モンスターなんスよあのお方。
なんかゲットしたらエロいお姉さんになっちゃいまして。
「というか兄貴、確かゲット? したら使役出来るんじゃなかったんスか?」
うん? その通りだよ。
「なんか、あの女性の方が立場が上に見えたんですが……」
ああ、うん、言われて見れば……ちょっとそうかもしれない。いったい何時から?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます