レベル94

「という事で、相談したら工房付きのお店を用意してくれるって」


 話になりまして。

 ユーオリ様、そりゃもう飛び上がらんばかりに喜ばれて、さっそく用意しなくちゃって張り切ってございました。


「ま、ま、ま、待て、その娘と二人だけで……か?」


 姫様、随分動揺されているご様子。

 隣の虹色の髪をしているメイドが、卑怯だぞこのヤロウって目線を送ってきている。


「……アポロも行く!」

「うう……なんとか頑張ります」

「置いて行くなんてとんでもないッス」


 ユーオリ様のご好意で、隣にサヤラの工房も作ってくれる事になった。

 銃の本体は向こうじゃ作れないので、こっちからの輸入となる。

 逆に弾はサヤラしか作れないので聖皇国からの輸出となる。


 サヤラの仕事は倍に増えるわけだ。


「パパとママも頑張ってくれてるから、多少なら生産が出来るんだけど……需要には全然追いついてないからなあ……」

「聖皇国で売り出して、どんだけ需要が増えるかによるッスね」

「こっそりと売れば、大丈夫だよね?」


 オレは向こうでもヒットすると思うけどなあ。

 姫様はそれを聞いて今度はとある人物へ目線を向ける。


「ん? ボクかい? もちろん憑いて行くに決まっているじゃないか! ボクとクイーズ君は離れられない仲だからね!」


 また誤解されるような言い回しを……


「せ、聖皇国との直通竜路を……今すぐ作らねば」

「一国の姫様がおいそれと他国を訪問出来ますかね?」

「か、カユサルはしているだろう!」


 姫様と隣の虹色の髪をしたメイドさんが揉めていらっしゃる。

 カユサル様は向こうからの招待ですしね。ならば、私も招待されてやる! 誰にだよ? なんてやり取りをしている。

 まあ直通竜路は欲しいかな。今だと、一度ヘルクヘンセンに行って、そこから聖皇国に向かわないと行けない。


 ヘルクヘンセンまでは約2時間。そこから聖皇国までは3時間。ほぼ半日がかりになってしまう。

 直通だと2時間ちょいぐらいで行けそうだ。


「すぐに帰って竜路を王へ進言してくる!」


 そう言うと颯爽と外へ出て行く。

 隣の虹色の髪をしたメイドさんがヤレヤレと肩をすくめている。


「カイザー、何をしている! 早く来ぬか!」

「はいはい」

「はいは一度だ!」

「ういっす」


 グリフォンさんとも随分打ち解けているご様子。

 そして進言された竜路は一瞬にして採用された。

 元々、サンムーン再建で必要だったとの事。


 だが姫様、そんな事はおくびにも出さす、


「私の成果でこことの距離が近くなった! なにかご褒美が欲しい!」


 などと強請ってきます。


「何かと申されましても……」


 えっ、赤ちゃんが欲しい? このままだとカユサルに先を越されてしまう?

 いや、どうなんでしょう? グランドピアノさんに子供が出来るのでしょうか?


「そんな事、認められない」


 エクサリーが姫様の前に立つ。

 なんか今日のエクサリーさんは何時にも増して迫力がございます。

 思わずウッと後ずさりする姫様。

 姫様でも後ずさりするか……どんだけ迫力があるのよ?


「フンッ、なんだ貴様か、お前の言葉など聞くに値しない」

「これでも、それが言えますか」


 エクサリーが一つの紋章を机の上に置く。

 それは――――聖皇国の公爵家である証。


「貰えるものは貰っておく」


 姫様の口が開いたまま塞がらない。


「私はもう、どんな事をしてでもクイーズを手放さない!」


 エクサリーがそうはっきりと言うのは初めてじゃないだろうか?

 なんだかオレ、感動してきちゃった。


「ま、まだだ! クイーズはピクサスレーンの貴族! そう易々と他国に渡る事は適わん」

「その点は感謝しています。直通竜路が出来たおかげで頻繁に戻って来られますから」


 ガビーンって顔で隣の虹色の髪をしたメイドを見やるお姫様。

 そのメイド、哀れげな視線でそれを返す。

 おい、何か策は無いのか! いや、もう無理っしょ。ってやり取りをしている。


「ま、まだだ! 私は決して諦めない! 退かぬ! こうなれば……」


 ガシッとオレの肩を掴む姫様。

 ちょっと、何をしようとしているので?


「このまま城に連れ帰って檻に閉じ込め・・ハウッ!」


 その姫様をチョップで黙らせる虹色の髪をしたメイド。


「少々姫様が暴走されたご様子、本日はここの所で引き上げるとします」


 そう言ってズルズルと姫様を引き摺って行く。いいのかソレ?


「ちょっとアポロ、どんどん突き離されていない?」

「そうッスよ、やばいッスよ」


 サヤラとティニーが心配そうにアポロの顔を除きこむ。


「…………まだ平民枠が在る。クイーズと一緒なら妾でも構わない」

「アポロ……」

「ウゥッ、切ないッス」

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