レベル93 姫様再び

「私は帰ってきた!」


 どっかの、がとーなおじちゃんが言ってたような台詞を吐く姫様が約一名。

 どうやら硬直していた前線に動きがあった模様。

 結局の所、和睦という形で収まったらしい。

 しかしながら、裏切った貴族達の身上はまだ決まっておらず、姫様の帰還も遅れていたのだが、本日無事な姿を見せられた模様。


「向こうには返すと言われたのだがな。貰ってもどうしようもないので、そっちでなんとかしてくれという話になった」


 なるほど、なるほど。


「返されると、その処遇にさらに時間が掛かってしまうしな!」


 なるほど、そっちがメインですか。


「さあクイーズ! 待たせたな、仕込みは上々だ。今日からは退屈させんぞ」


 なんの仕込みでしょうか?

 隣の虹色の髪をしたメイドさんが同情的な視線を投げかけてくる。


「あっ、姫様、実はオレ達、聖皇国に引っ越すことにしたんです」

「ハァ?」


 こないだ聖皇国に行ったとき、国民の皆さんから、またバンドを聞きたいという陳情がたくさん来ていたそうな。

 偶にで良いので、こないだの広場で演奏をして欲しいと。すでにステージまで作っているとか。

 いや実はですね、カユサルの奴がですね。大層忙しいらしくてですね。


 聖皇国の一件で外交官をしてしまった事もあり、その他の国でも差別するわけにはいかず、引き続き外交官をする必要が出てきた。

 で、よしときゃいいのに、そこで毎回グランドピアノの演奏会を開いたそうな。

 そしたら各国のえらもんさんから、


「こんど娘の結婚式があるのだ! ぜひにその演奏の腕前を披露して欲しい」


 とか、


「来週第一王子の成人の儀があるのだ。そなたにもぜひに出席して、今一度その音を聞かせてくれまいか」


 などと言ったオファーが殺到。

 一躍時の人となったカユサルには、一年先まで予約が殺到する始末。

 ししょぅ~と泣き付いて来たが、自業自得なので頑張れとしか言えない。

 広場では、グランドピアノの受けがあまり良くなかったのでムキになっていたらしい。

 しかし、上流階級の人達にはものすごく受けが良かったようだ。


 なのでちょっと無理そうですと言ったのだが。

 クイッ、クイッと親指で自分を差すユーオリ様。

 えっ、自分がベースを弾く? えっ、マジで!?

 なんでも、ちょっと興味があったらしい。


 カユサルのベースギターを渡すわけにはいかないので、ラピスがユーオリ様用にベースギターを作って差し上げた所、大喜び。

 寝る間も惜しんで練習し始める始末。

 一国の姫様がそんなとこ立って大丈夫なの? と言ったら、


「変装するから大丈夫よ!」


 なんて言う。

 もちろん大丈夫じゃなかったようで、手を振るたびに大声援。

 今回は告知してからやったので、広場に収まりきれない程の人々が集まってきて、溢れた人は屋根の上とかにも登っている。


 大成功の内に終わった二回目のバンドの後、ユーオリ様が言ってくる。


「ねえ、この楽器っていうの? 販売とかしてくれませんか」


 なんでも自分もバンドが組みたい。なんて人が殺到している模様。

 さっそく大手は楽器作りに手を広げて居るそうな。しかし、遠くから見ただけでは再現が難しいとか。


「スキルがなければあまり大きな音は出ませんが……?」

「フッフッフ、うちをなめてもらっちゃあ困るぜヨ!」


 そして、ペッペケーと取り出す一つの魔道具。

 なんでも音を増幅する機能があるらしい。

 音を大きくするだけだから製造に掛かる費用は大した事はないのだが、何分、需要が無い。


「技術者達も戦争に使われるんじゃなく、こんな風に娯楽に使われることを望んで居ますしね」


 なるほど……コレをセットで売り出せば。

 さっそく帰っておやっさんに相談する。するとだ、


「……エクサリーも、もう立派な大人だ。一人で店を持ってもいい時期かもしれん」


 なんて事を言ってくる。

 商人の子は基本15歳で自立する。そして16歳になるまでに足場を固め、伴侶を迎える。

 それ以降は伴侶と協力して店を盛り立てていくとの事だ。


「でも私は、父の元を離れるなんて……」

「本来なら、もっと早くに決断しなければならない事だった。だが俺はどうしてもお前を手放すことが出来なかった」

「………………」


 おやっさんがオレとエクサリーの手を取る。そして二人の手を重ねる。


「クイーズ、俺の一生で一度の願いだ。頼む、エクサリーを幸せにしてやって欲しい」

「おやっさん……」

「俺の出番は……もう無い。未来は、お前達二人で切り開いて行くのだ」


 エクサリーが両目に溢れんばかりの涙を湛えている。

 オレも自然おやっさんの手を握り返している。


「任せてくれおやっさん! オレはオレの持つ全てを持って、エクサリーを幸せにしてみせる!」

「そうか、……ならば後の事は頼むぞ、クイーズ」


 そう言って真っ白に燃え尽きたかのように目を瞑って、ぐったりと椅子にもたれるおやっさん。


「おやっさん! おやっさーーーん!」


 と、エクサリーがベシッとおやっさんの額をチョップする。


「そんなおふざけは良くない」

「いやっ、ほらっ、なんかそんな感じかな~って、なあ、クイーズ」

「う、ウス。だからエクサリーさん、そんな縊り殺そうなんて思わないでください」


「……誰もそんな事思ってない」


 その間はなんでしょうか?

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