第六章

レベル89

「うわぁああああ! 離してよ! ほんと離してください!」

「良いではないか、良いではないか」


 竜王ニースさんのお話では、なんでもカシュアは、骸骨が人間だった頃の伴侶の魂が多少なり混ざっているそうな。

 そしてそんな話を聞いた骸骨、そりゃもう、仕事をほっぽりだして毎日カシュアにスリスリしている。


「おい骸骨、パセアラから仕事が溜まっていると苦情が来ているぞ」

「良いではないか、良いではないか」

「もうそれ持って帰っていいから、仕事はちゃんとしろ」


 見捨てないでよぉーーーって、オレの足に縋り付いてくるカシュア。

 分かった、分かったから! ええい、オレのズボンに鼻水を擦り付けるでない。

 いいから骸骨、早く仕事して来い。余計にカシュアに嫌われるぞ。


「仕方在るまい。今日のところは帰るとするか」


 もう来んなバーローってアッカンベーをしているカシュア。


「さっさと終わらせて帰ってくるから待っててね。ダーリン(はあと)」


 と投げキッスをしてくる骸骨。

 なんか背筋に冷たいものが……オレとカシュアは思わず抱き合って震えている。

 恐ろしい……深遠を垣間見てしまった感じだ。


 オレはさっそくパセアラに緊急電話。少しでも多く骸骨に仕事回してくれと頼みこむ。


「あなたから掛けてくるなんて……珍しいわね」


 そう言えば始めてかもしれない。


「……パセアラはまだ怒っているのか?」

「バカにしているの? 貴方の事なんて最初から何とも思って無いわ」

「相変わらずだなあ……」


 オレは苦笑して話を続ける。

 なんだか電話だと素直に話せるから不思議だ。


「クイーズ、食事が出来たわよ」

「クイーズ君は今、昔の女と会話中だよ!」


 おまっ、なんて事言うの! 違わないけどっ! 違うだろ!


「だって長いよ、長過ぎるよ! ボクの事ほっぽりだしてさ!」


 なにがほっぽりだしてだ! お前十分ポテチを堪能してただろ?

 というか、そんなに長かったか?

 ふと見ると、もう夕暮れが近い。

 普段パセアラとは、面と向かって話すと一言、二言で終わるのに。


「そろそろ切るよ」

「あっ……うん。そうね、長居してしまったわね」


 なんだか名残惜しそうな声が聞こえる。オレの錯覚かな?


「ま、またっ、掛けて来なさいよね! ダンディの事もっ、ちゃんと話さないといけないし……」

「おっとそうだった。ダンディに仕事回すように言うの忘れてた」

「ええっ、その為に電話したんじゃないの! 困るよ、キミィ!」


 ええーい、だから擦り寄ってくるな! 顔が近いぞっ!

 オレはカシュアにアイアンクローをかましながら食堂へ向かう。


「…………最近カシュアと近い」

「そうだよね、エクサリーさんとも目で分かり在っている気もするし」

「ううっ、うちらはどうせ置いてけぼり組ッスよ」


 アポロ達三人娘がそんな事を言ってくる。

 仕方ないだろ、今回は外交という理由があったんだし。

 ちなみに戦争の方は聖皇国が裏で手を回してくれたらしく、ほとんどの国が国交の回復を望んできている。

 しかしながら、ヘルクヘンセンの悪徳貴族達が逃げ込んだ国だけは、引くも進むもままならないらしく、国境で睨み合いが続いている。


「…………私も聖皇国行って見たい」


 アポロがポツリと呟く。

 なんでも、出来る事ならユーオリ様に直接会ってお礼を言いたいらしい。


「そうだな、今度また行く約束しているから、その時は一緒に行くか」

「えっ、……うんっ!」


 アポロが満面の笑みを向けてくる。

 と、その間にドンと食事を置く人物が。


「…………般若が来た」

「っ、今日はお化粧してません!」

「えっ、化粧していないから般若じゃないんスか」


 ギッギッギッて、それこそ般若の顔をしたエクサリーがティニーの方へ首を回す。

 ヒィ! 口が滑ったッス、般若どころか仁王様ッス! と弁解するティニー。

 それ、悪くなってるぞ? お前は謝っているのか挑発しているのかどっちなんだ?


「ん、そういやロゥリはどうしたんだ? いつも食事時には戻ってくるのに」

「そういえば見かけませんね?」

「ああ、ロゥリならレベルが上がってスピードも上がったので、ちょっと遠出するとか言ってましたよ」


 そうラピスが言ってくる。

 遠出ねえ……他所様に迷惑を掛けていなければいいが。

 竜王を倒した経験値が結構入った様で、いっきに3つも上がっていた。


 そこへ、トタトタトタと足音が聞こえる。

 どうやら噂のロゥリが帰ってきた模様。


「どうしたのロゥリちゃん! そんなに傷らだけで!」


 そのロゥリ、ボロボロになって候。


「リュウオウノジッチャント、ケイコシテタ」


 という事は、聖皇国まで行って来たのか? この短時間で?

 すげーなお前。今度は乗せてって行ってくれよ。


 ――ガブリ!


「イダダダ! 何で噛み付くんだよ!」

「ジッチャンガイッテタ、スキガアレバイツデモカカッテコイト!」


 それ言ったのじっちゃんだろ! オレじゃねえだろ!

 ええい離れろ、このクソドラゴン!


「いつもほんと賑やかだねえ。おいちゃんも混ぜてくれよ」

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