レベル67
コイツは昔から口が悪い。毒舌と言おうか。
昔は良く、コイツに泣かされたっけ。
唯、今ならなんとなく分かる気がする。パセアラがなぜそんな風に口をきくのかを。
「相性は良くないようだが……二人はもう婚約者だ」
オレはそっと地面に膝を付く。
「こんな……こんな口の悪い女だが、どうか、どうか幸せにしてやって欲しい!」
「師匠! やめてください!」
慌ててカユサルがオレを抱え起こす。
「パセアラはオレの初恋の相手だ。一時は婚約寸前までこぎつけた事も有る」
「…………やめてよ」
「こいつが口が悪いのは……たぶん環境の所為だ。誰も信じられない、誰もが嘘を付く世界。そこで本音を聞きだそうとするには怒らすのが一番だ」
「……やめてったら」
「正直にだけはあって欲しい。嘘を付かない奴はパセアラが嫌う事は無い」
「やめてって言ってるでしょ!」
バン! と両手を机に叩き付けて立ち上がる。
「あなたに……私の何が分かるというの? 私を捨てて出て行った癖に!」
違う、こともない。あの時はまだ、やりなおせる。キチンと話をすれば良かった。かもしれない。
パセアラならば、じっくりと話をすれば分かってくれた。かもしれない。
だがオレは、それに背を向けてしまった。
パセアラの言うとおり、唯、逃げる事しか考える事の出来なかった臆病者である。
「あの時のオレは嘘は言っちゃいなかった。だけど……今ではすっかり大嘘付きになっちまった。もうパセアラにあわす顔は、無い」
パセアラは目に涙を溜めてオレを睨んでくる。
「そんな大嘘突きなオレを……大嘘突きでもいいって言ってくれた人がいる。だからオレは……」
――ガブリ
えっ?
「イダダダダ! えっ、なにこの頭痛!? 頭はやめてぇええ!」
突然、オレの頭に噛み付く小動物が約一匹。
「パセアラナカス、テンチュウ」
天誅じゃねえ! オレはドラゴン姿になっているロリドラゴンをひっぺがしブン投げる。
「ダイジョウブカ、パセアラ」
余裕で着地したロリドラゴンが、ドラゴンの姿のままパセアラの元に向かう。
パセアラはそんなロゥリをギュっと抱きしめる。
ロゥリはしょっちゅう骸骨の元に訪れるので、そこに居るパセアラともすっかり仲が良くなっていた。
「アレは……最近城下町で噂になっている、幸せを呼ぶホワイトドラゴン?」
カユサルがそう呟く。
なんでもここ最近、街では小さなホワイトドラゴンが大活躍しているそうな。
馬車に轢かれそうになった老人を助けたり、燃え盛る炎の中から子供を救出したり、どうやら草原だけでなく、堀の中まで入っていろいろ自由に過ごして居るようだ。
そしてそんなロゥリを街の人々は、幸せを呼ぶホワイトドラゴンだと感謝を捧げているらしい。
「……まあロゥリの事はおいといて、カユサル、お前に受け取って欲しい物が有る。婚約祝いとしてオレからのプレゼントだ」
「その必要はありません。師匠の願い、しかと承りました。このカユサル、必ずやパセアラ女王を幸せにしてみせましょう」
まあそう言うな。きっと喜ぶから。
なんせ、オレが持っていても仕方ない代物だからな。
これはお前が一番適任だと思う。
オレ達は城の中庭に向かう。
合計レベルが100に達したことで増えたモンスターカード。
そのモンスターカードでゲットしたモンスター、その名も――――
『出でよ! グランドピアノ!』
通常の倍以上はあろうかという巨大なグランドピアノだった。
いやあ、次は必ずって言ったのがフラグだったのかどうか知らないけど、見事にやっちゃいましたよ~。
これ、超高かったんスよ~。
骸骨が、我輩の稼ぎが無駄になったってレイプ目をしていたぐらい。
とりあえずコレ、大き過ぎて店に置けない。
そしてオート演奏のスキルがない。なので演奏が出来る人がいない。
さすがのオレも、百万は余裕で超えるこんな楽器は触った事も無い。
高いグランドピアノなんて普通に豪邸が建つからなあ……たぶんこれ、その類の奴。
「こ、これは……!?」
カユサルが震える手で鍵盤を押し込む。すると、透き通った一つの音が辺りを支配する。
ブルブルとカユサルの全身が震えている。
一つ一つ慎重に鍵盤を押していき、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
さすがカユサル。一度聞いただけでもう音を覚えたのか、壮大なバラードを奏で始める。
初めてなのでぎこちない音だが、それでも物がいいことは伺い知れる。
「し、師匠……ほんとにコレ、貰っていいんですか?」
「ああ、オレではこれを使いこなせない。しかしお前なら……大丈夫だろう?」
「……っ、ハイ!」
えっ、これの元がなにかだって? いやそれがオレも良く分からない。
強くて、力持ちで、素早いモンスターを頼む。ってブローカーに頼んだが、やけにでっかくて黒い奴が届いて。
たぶんベヒモス系なんだろう事は予想出来るんだが。
正式な名前はブローカーも知らないと来た。きっとレア種だったのだろう。
☆も9とドラスレに継ぐレアリティ。
「残念ながら今はスキルが無い。なので生音しか出せないが……」
「十分です……俺は……こいつに出会う為に生まれて来た、なぜかそんな気がします」
「そ、そうか?」
カユサルは涙ぐみながらオレの両手を取ってくる。
「必ず! 必ずや! 師匠の期待に応えて見せます!」
ああうん、ほどほどにね? 君、ちょっと思いつめるとこあるから。
なにはともあれ、これでコイツのレベルも上げれそうだなあ。
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