レベル61

 週に1回は、ヘルクヘンセンに顔を出さないといけない。

 骸骨が裏で糸を引いているとしても、形式上はオレが後見人となっている。

 なので、仕事しているフリだけでもしないとならないらしい。


 それで行くついでに骸骨に、


「なあ、ちょっと手のかかる悪ガキが居て困っているんだが」


 と相談を持ちかけた。


「ふむふむ、ならば我輩に任せたまえ、こう見えても子育ては何人も経験・・コホン」


 などと言うので、ロリドラゴンを連れて行ったのだが……


「ギィイイヤァアアー! 我輩は骨ではない! イダダダ! いや、やめて、相手があのドラスレなんて聞いてないでござる!」


 どうやらドラスレに苦手意識があったもよう。

 そら、2回もドスンっていわしてるからな。

 そしてロリドラゴン、骸骨が気に入ったのか、あま噛みしてござる。まるで犬だな。


「懐かれて良かったじゃないか、オレだと肉ごと食い千切られるんだぞ」

「全然良くないわよ! ちょっとやめてよ!」


 てんぱってオネエ言葉になっている骸骨。

 そのうち、オレとロリドラゴンの襟首を持ち上げて、部屋の外へ放り出される。

 扉の前でオレはロリドラゴンと顔を見合わせる。


 ――ガチンッ!


 ウォッ! あぶな!

 おい骸骨! オレとこいつを二人っきりにしないでくれ!

 いだっ! このクソドラゴン! いでっ、いででで。


 部屋の前でロリドラゴンと格闘を繰り広げていたところ、ドアがちょっとだけ開き、オレを手招きしてくる。

 急いで部屋に入り戸を閉める。


「おまっ、オレをコロス気か!」

「随分嫌われているようですな」

「だからお前に調教を頼みに来たんじゃないか!」


 まあそれはおいといて、と言う。いや、おいとかないでください。


「少しは会っていかれないのですかな?」

「……誰にだよ?」


 骸骨が肩をすくめる。


「ずっと元気がなくてですな、今では痩せ細って見るに耐えない姿。過去にどういういざこざがあったか知りませんが、王位につけたという事はもう許しているのでしょう? ならば、少しは話をしていかれよ」

「……だから一体なんの事を言っているんだ」


 いや、分かっている。

 オレだってこのままじゃダメなんだって気づいてはいるんだ。

 唯少し、もう少し、時間が欲しい。心の整理というかなんというか……

 気付けは、オレは俯いて地面を見つめていた。


「ウフッ、意外とかわいい所もあるのね」


 オレは面を上げる。

 右を見る。左を見る。誰も居ない。

 今ここにはオレと骸骨しか居ない。ということは、さっきのセリフは……


「我輩、どっちもいける口なので」

「ヒィイイ!」


 オレは思わず後ずさる。

 その時、背後の扉が開いた。


「ちょっとダンディ、ロゥリを放置しないでくださいよ。危険でしょ」


 ラピスがそう言いながら入ってくる。

 なあ、ところで皆、あのロリドラゴンの事をロゥリと言っているんだが、それもしかして名前か?

 えっ、オレが言ってただろって? いやオレはそういうつもりで……まあいっか。


「優雅にお茶を飲んでいたら、お菓子ごと全部平らげられてしまったじゃないですか」


 余裕だなお前。オレらは命がけで対策を練っていたのに。


「それでそのロリドラゴンはどうしたんだ」

「お腹がいっぱいになったのか寝に入りましたよ」


 くっそ、あのロリドラゴン、自由だな!

 もうここに置いて帰ろうか……


「ふむふむ、仕方あるまい。一度はやろうと言った事だ、我輩がなんとか躾をしよう」

「ほんとうか! お前、実はいい奴だったんだな!」

「我輩は最初からいい男であるぞ」

「「それはないな」」


 二人同時に否定されて、ちょっと落ち込む骸骨。


「とりあえずそのロリドラゴン起こしに行くか」


 と、向かったロリドラゴンが寝ている場所。

 それは一人の女性の膝の上だった。


 オレとその女性は無言で視線だけを交わす。

 互いにジッと見つめあう。

 ラピスが不思議そうな視線を向けてくる。


「ラピス、ダンディ、あいつの事は任した。オレは一足先に竜籠に行っている」


 ダンディがヤレヤレと首を振るのを後に、オレはその場所を抜け出す。


「まあ、あの年頃は難しい時期だ。仕方有るまいて」

「へぇ、あのお坊ちゃまがねえ……そんな年相応な……私、ちょっとびっくりしました」


 聞こえているぞラピス。

 王都間を結ぶ交通に使われる竜籠で待っていた所、ダンディとラピスが現れる。


「あいつはどうした?」

「良く寝ているんで置いてきました。それでは後は頼みますよ飼育がか・・おっと、ダンディ」

「おい貴様、今、飼育係と言おうとしたか!?」


 ラピスが骸骨の抗議を聞き流しながら、飛竜につなげられた客車に入って来る。


「いいのか起こさないで? せめて説明ぐらいはしたほうがいいんじゃないか?」

「大丈夫でしょう。ごねるようなら召喚で戻せばいいですし」

「まあラピス譲がそう言うなら大丈夫であるか」


 いや骸骨、こいつの大丈夫はあまり当てにならないから気をつけろよ。

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