第四章

レベル58

「まずは、お坊ちゃまを王位につけ、要職を少しずつ削り、最終的には抵抗勢力を一掃ですか」

「ほほう、我輩の考えていた事が分かるのかね」


 骸骨王が、我輩の知識・経験を持ってすれば、数年もいらぬ話だったのにな。と手に持った酒杯を高々と掲げる。


「スキル『カード統率』どうやらこれには、カード内のモンスター達の考えている事が分かるようですね」

「……まあそれも、主によって力尽くで達成されてしまったがな」


 ラピスが手に持ったステッキをカツンとならす。


「今回はお坊ちゃまにとって害のない事でしたから放置しましたが、あまり勝手な事は辞めて頂きたいものですね」

「最初は持ち上げておいて、仕事の内容を聞きだし次代に移す。片付けは、使えなくなってからでも遅くはない。おかげで我輩の仕事が山ほど出来てしもうた」

「ご不満があるのなら解放してさしあげましょうか?」


 ラピスが骸骨王のカードを手に掲げる。


「お坊ちゃまには言っていませんが、どうやら私には、カードからモンスターを切り離す権限があるようです」

「……なるほどなるほど、主が神であるとするならば、そなたは我々の王であるということか」


 さてどうでしょうかね、と言いながらカードを机の上に置く。


「我輩の考えが知れておるのなら態々口に出す事もないであろうが……こう見えて、主には深く感謝しておる。決して翻意はない」

「なら、お坊ちゃまを試すような事もしないでください」

「我輩が二度も出し抜かれたのだ、どのような人物か、少しは知ろうとしてもバチはあたらんだろう」


 ラピスの射すくめるような視線に肩をすくめる骸骨王。

 ラピスは一つ大きなため息を吐くとカードをしまう。


「ほどほどにしてくださいね」

「了解した」


 などというやり取りがあった事とは露知らず、オレは本日もエクサリーさんの愛妻料理を平らげる。


 いや~、相変わらずうまいッスよね~。

 料理はうまい! 気立てもいい! 性格は文句なし!

 ほんと、あの顔さえなければモテモテ間違いなし!


 ウォッ! 般若が来た!


「ブッ!」

「ブハッ!」

「なに! いったいどこへ襲撃しに行くの!?」


「どこにも襲撃しない」


 朝食の準備が終わって一旦部屋に戻り、帰ってきたエクサリーさん。顔が歌舞伎のように……


「お化粧を頑張って見た」

「「「………………」」」


 おい、お前ちゃんと感想言ってやれよ。って、つついてくるおやっさん。

 いやおめえ、ホントの事言っていいの?

 ダメに決まってんだろ。って、いったいどうしろと?


 ちょっと直視に耐えないんですが。あれ絶対、子供が見たらトラウマになるレベル。


 と、ポタポタとスプーンからスープを零しながら絶句していたアポロが立ち上がる。

 そしてエクサリーの手を引いてどこかに連れて行った。

 暫くして戻ってきたエクサリーに、これまた全員が絶句する。


「あちっ、アチチチ!」


 おやっさん、そこ口じゃない、ほっぺッスよ?

 オレは震える指で、思わずエクサリーさんを指し示してしまう。


「だっ、誰。いやエクサリーなのは分かる。分かるんだけど……これはもう、エクサリー改とでも言おうか……」


 そこには、キリッと佇む、そう、誰が見ても――――絶世の美人としか見えない人物が立っていた。

 隣に居るアポロが、ない胸を張っている。

 怖い部分は鳴りを潜め、美人な部分だけを強調した、なんかそんな感じがする。


 えっ、女性って化粧でこんなに変わるものなの!?


 えっ、ヤバいよ。こんな姿で店番に出た日には不埒な男共が殺到する事請け合い。

 先ほども言ったが、エクサリーさんは、料理良し! 気立て良し! 性格良し! の三拍子。それにこの顔が加われば……

 ダメダメダメ! 絶対まずい! なんて事してくれたのアポロさん! ありがとうございます! じゃなかった、ヤバイんスよ!


「ど、どうかな……」

「ダメだ!」

「ええっ!?」

「そんな綺麗な顔で外を歩いたら、絶対に取られてしまう! エクサリーはオレのもんだ!」


 なんだか錯乱して、とんでもない事を口走っています。

 き、綺麗だなんて……て、両手を頬に当ててイヤイヤしている。ズキューンってキタっす!

 アポロ! オレは今日から、お前を美の女神として称えようではないか!


「ちょっとアポロ、良かったの? 敵に塩を送るような事して」

「そうッスよ、せっかく、こないだのホッペにチュウでポイント稼いだのに」


 なんかアポロがハッとした表情を見せる。

 そしてオロオロとオレとエクサリーを見比べて……最終的には何か悟ったような顔をする。


「…………クイーズが喜んだ。私は満足」

「アポロ……」

「ウゥッ、切ないッス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る