レベル35

「コレ……何……?」


 そういえば聞いた事がある。

 天啓のスキル持ちの周りには、その天啓で見える世界に由来したスキルが現れやすい事が多いと。

 サヤラの手の中に在るもの、それは、オレの前世でみた銃器に由来する、鉄の弾丸であった。


 えっ、オレのスキル別に天啓じゃないんだが?

 えっ、これどうなってるの?

 えっ、これももしかしてオレの所為?


 そういや、あのメタルスライムの『擬態』も普通と違うって言ってたなあのお姉さん。


 大小様々な弾丸を手にして首を傾げているサヤラ。

 まずいぞ、コレ、役に立たないんじゃ……

 なんせ弾だけあっても銃がなければ意味がない。


「おかしいですね? なぜかこんなものしか頭に浮かんできません」

「すっ、スキルだってその、使ってると、その、そのうち熟練度とかが上がって色々作れるようになるんじゃないか?」

「ですよね!」


 まぶしい! その笑顔がまぶしすぎる!

 やばいよ、いったいどうすれば……


「ラピえも~ん、ピンチなんだよ! 助けてください!」

「誰がラピえも~んですか?」


 オレはさっそく、店に帰ったらラピスに泣きついた。


「なるほど……お坊ちゃまの前世の世界の弾丸ですか……」


 なんとか銃を作る技術を授けては頂けませんでしょうか?


「それにはまず、鉄を加工する技術から必要ですね」


 お試しにはちょうどいいかも知れません。って呟いている。

 なんのお試し?

 翌日、さっそくラピスは鍛冶屋さん達と打ち合わせを始めた。


 一日も早く頼む! こっちゃ胃に穴が開きそうだよ!


 サヤラは毎日スキルを使って弾丸練成を行っている。

 その間、アポロとティニーは店の手伝いをしてくれている。

 冒険者家業は、サヤラのスキルが安定してからと決めたらしい。


「そんな毎日顔を出さなくても……あっ、もしかしてアポロに会いに来た?」

「いや、それはない」


 なんかアポロが落ち込んでいる。

 気が気じゃないんスよ!

 このままだと永遠に冒険者家業はお休みかもしれない。


 そんなヤキモキとした日が何日か続いた。


「できた! 出来ましたっ! ほら、これこそ私の銃弾です!」


 なんと、ほんとにスキルが上達したのか、魔法銃の弾丸を精製することに成功したのだった。

 まさしく、嘘から出た誠ってやつだな。


「よしっ、後はこれを量産すれば……」

「それはちょっと待ってくれ」


 出来ると分かったら急に欲が出るものだ。

 どうせならそのスキル、もっといいものにしてみないか?


「えっ、筒だけでいい?」

「ああ、ちゃんと螺旋もつけてくれ」

「まあ、今の技術では細かいパーツは難しかったのですけど……」


 とりあえずラピスに銃身のみの作成を頼む。

 魔法銃の弾丸が出来る、ということは、魔法銃の弾丸と、鉄の弾丸のいいとこどりだって出来るはずだ!


「えっ、回転? ですか」

「そうだ!」


 魔法銃の弾がうまく的に当たらないのは、弾自体が回転していないからだ。

 回転さそうにも、その弾は魔法で出来ているため、形が不定形。なおかつ柔らかい。

 だったらどうだ! それを鉄で覆ってしまえば!


「今までの鉄の弾丸の中に……魔法弾を……!?」

「そういうことだ! そして銃身にはな、施条と呼ばれる斜めに走る溝を彫っておく」

「筒との接触で弾が回転……する!?」


 オレは、黒板とチョークを使って銃の構造を説明する。

 回転しない弾は空気抵抗をもろに受けるので、軌道が変わったり、スピンして先頭から的に当たらない。

 まあ、魔法弾はその辺りを道中の加速という形で補っている訳だが。

 それに、さらに回転を加える事が出来たなら……


「……!? その銃身の作り方、私にも見せてもらえますか!」

「ああ、それじゃあ明日にでも、いや、今から行くか?」

「はいっ!」


 オレはサヤラを連れて、ラピスが作ったっていう工房へ向かう。


「なんたってこんな辺鄙な場所に?」


 それは、態々危険な森を切り開いて、町からだいぶ離れた場所にあった。


「おっ、坊ちゃんじゃねえか?」

「護衛、ご苦労様です」


 女格闘家さんのパーティメンバーが護衛をしてくれていた。


「まあ、俺たちゃ守秘義務があるからよ。言わないけどさ。とんでもないもの作っているな」


 ほうほう?

 オレ達は工房の中に入って行く。


「ラピスちゃんこれほんとに公表しねえのか?」

「ええ、今は『時期』ではありませんからね」

「コレがあれば……鉄の革命が起こるな」


 そこにあったのは、小さいながらも立派な溶鉱炉であった。


「あら、お坊ちゃまじゃないですか? どうしてこんな所へ?」

「いや、サヤラが製造現場を見たいってな」


 あれ? 居ないと思ったら、どうしてこんな所にアポロが?


「高炉だけではいい鉄は作れませんから、こうして、アポロの魔法を使って酸素を送り込んだり、温度を調整したりしているのです」

「…………サヤラにはいっぱい世話になった。少しでもお返ししたい」

「アポロ!」


 ちょうどいいとこに来ました。と言ってサヤラを呼びつけるラピス。

 どうやらサヤラに鉄の銃弾を出させているようだ。

 そして出てきた銃弾を、分解して鍛冶屋さん達に説明している。


「これが……混じりけの無い……」

「火薬? うぉっ、こりゃすげえ」


 皆さん、ワイワイと言いながら講談に花を咲かせる。


「こりゃ売りに出したらとんでもない金になるんじゃねえか?」

「えっ、でも私にしか作れないし……」

「だからいいんじゃねえか! 専売特許だぜ? 弾だっていくらでも作れるなら大量に付けてやれば結構な金額でも売れると思うぜ」

「…………そうしたら、店にも恩返しできるかも」

「っ……! そうですね! 私、頑張ります!」

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