レベル16

『出でよ! メタルスライム!』


 話を聞いてるうちに結構時間が経ったので、もう回復しているかなと、再度スライムを召喚する。

 召喚したスライムちゃん、泣いているお姉さんを気遣ってか、ぴょんぴょんと跳ねて無事を見せ付けているかのようだ。


「えっ、なんで……スラミィちゃん……?」


 信じられないって顔でスライムを見つめるお姉さん。

 今度はそっと、スラミィちゃんを抱き上げる。

 オレはそんなお姉さんに、モンスタカードの仕様を説明した。


「えっ、それじゃ、いくら握りつぶしても大丈夫ってこと?」


 いや、握りつぶさないであげてください。


「そりゃもちろんそんな事はしないけど……」

「まあ、レベルを上げれば、少々思いっきり抱きしめても大丈夫にはなるだろうけど」

「その話、詳しく!」


 ちょっ、怖いッスよ。

 いだ、いだだだ、肩痛いッス。

 ちょっと握力弱めて頂けませんでしょうか?


 あと、そんなに揺さぶられるとお話出来ません。


「モンスターを倒させて、レベル? を上げてそのパラメータとやらを伸ばすと……硬くなったり素早くなったり、それに…会話が可能になる……!?」


 いや会話はどうだろうか?

 ラピスを呼びつけて、カードの裏面を見せながら説明する。

 元、ウサギのラピスが、レベルを上げるとこうなりましたよって感じで。


「いや、ラピスの場合、カードにした時点でこんな人間っぽくなった訳で……いやでも、10レベルぐらいになったら文字も書けるようになったから、筆談ぐらいは可能になるかも……」

「その話、詳しく!」


 いだ、いだだだ、だからその握力で肩掴むのやめて欲しいッス!

 そのスキル、相手がモンスターに係わらず、普通にダメージになってるじゃん。


「本当に!? 本当にスラミィちゃんと意思の疎通が可能になるの!?」


 意思の疎通ぐらいなら、5レベルぐらいで可能かと思われます。


「その上、怪我したり、万が一死んじゃっても、君の元に連れてくればすぐに元通りなの!?」


 いや、すぐに、は無理だろうけど。

 まあスライムはそもそもヒットポイントが少ないから、回復は早いほうだろう。

 お姉さんはオレの両手を握り締める。


「神よ! 私はこれから貴方を神と崇めようではないか!」


 いややめてください。


「その神が死んじゃったら、私達も死んじゃうんで気を付けてくださいね」

「「えっ、マジで!?」」


 オレとお姉さんの声がハモル。

 そんなの初耳なんだが?

 お前、他に隠している事ないだろうな?


「そりゃ当然じゃないですか。私達の魂はそのカードの中にあります。そのカードの大本であるお坊ちゃまのモンスターカードのスキルが無くなれば、行き所を失い無に還るしかありません」

「元の状態に戻ったりとかは?」

「カードになった時点で私達の体はすでに変化していますからね。元に戻るとか、そんなアフターサービスなんてあるようにはとても思えません。まあ、私の場合、仮に元に戻ったとしても、病気で幾ばくも無い命ですが」


 それにしてはお前、オレの扱い雑じゃね?


「何言ってるんですか? ちゃんと危険な時はお守りしているでしょう?」

「………………」


 そうだな。冒険中でも危険な場面ではちゃんとオレを守ってくれている。

 しかし『もの凄く』危険な場面では……お前、一人で逃げ出しているじゃね? 例のドラゴン戦とか。


「……本能には逆らえませんし」


 ちゃんと目を見て話をしようじゃないか。うん。

 ラピスはひたすら視線を逸らしながら、そういう場合は私が居てもどうしようもない場面ですしぃ、とか嘯いている。

 まあ、いいけどさ。


「全然良くありませんよ! う~ん……あなたはこの店の従業員ですか?」

「まあそんな感じかな」

「この坊主はこの店の跡とりのようなもんだな。さっき、オーナーの一人娘にプロポーズして成功したばっかなんだぜ」


 へぇ、それは見てみたかったですねぇと呟いた後、


「ならば、私達を専属護衛、として雇ってみませんか?」


 そう言ってくる。


「おっ、そりゃいいんじゃねえか。こいつらの腕は俺達が保障するぜ」


 鍛冶屋の親父さんがオレの肩を叩きながらお勧めして来た。

 なんでもこのお姉さんの所属するパーティ、そこそこ有名で、実力も上位に位置するほどなんだって。


「ラピスちゃんも一人じゃ大変そうだしな」

「こないだの盗賊は一匹逃したって言うしな」


 えっ、ちょっと待って、ラピス、いつの間にそんな事を?


「そりゃ私だってお金が係わるなら働きますよ。この店の収入が無くなったら将来設計が台無しですからね」


 コイツ、オレの知らない所で店の護衛をしてくれていたのか。

 そういや時間帯によっては、ガンとして動かない時があったな。

 しかしお前、将来設計ってなんだ? そんなの聞いた事ないんだが? なんかとても嫌な予感がする。

 もうこれ以上知能上げないほうがいいのではないだろうか?

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