レベル13

「いやいや待て待て、それってもしかして、オレの知らない事まで知ってたりしないよな?」

「どうしてそう思うのですか? お坊ちゃまの知識と私の知識はまったくの別物ですよ」


 ラピスが言うには、レベルが上がって知能が増える度に知識が広まっていくらしい。


「それってお前……間接的に天啓のスキルじゃねえか」


 ちなみに、ラピスのパラメータに振れるボーナスポイントは、昔と変わらず知能に全振りでござる。

 こういうのは中途半端にばらけさすより、一部に特化させるほうが役に立つ場合が多い。


「モンスターカードのスキル自体が、異世界のシステムで出来てますからね。そういう事もあるんじゃないでしょうか」

「あるんじゃないでしょうかって……つーことはお前、レベル上げて知能上がったら、異世界の物が再現出来るって事か」

「どうでしょうかね。自動車やヘリコプターなんて、いったい、いくつレベルが必要になるか。カンストしても無理かもしれませんよ」


 いや、そこまでいかなくてももっと簡単な物も有るだろ?


「洗剤、とかでしょうか?」

「石鹸じゃなく?」

「石鹸は意外に難しいのですよ。化学薬品が無いとなかなか綺麗に汚れがとれませんし、固形にするのも手間ですし」


 でもそんな洗剤とか売りに出せば儲かるんじゃね?


「無理でしょうね。この世界では天啓のスキル持ちにより、お坊ちゃま以外の世界からも技術が入って来ています。石鹸とか洗剤にしても、値段は張るようですが、ずっといい性能の物もあります」


 結局量を捌けられなければ、お坊ちゃまの世界の品物も高額品になるでしょうしね。と付け加える。


「そうだよな。仮に安く作れたとしても、それらの品も対抗して安くされたら投資分がまるまる損になる」

「自動車やヘリコプターぐらいのインパクトがあれば話は別でしょうがね」


 それにはまず、ガソリンを作らないとなあ。

 つーかガソリン出来たら、それだけで普通に武器になりそうな気もする。


「石油がこの世界にもあればいいんですけどねえ」

「とにかくお前、レベル上げて知能伸ばせよ」

「別に私じゃなくても、そろそろ3枚目のカードも使いましょうよ」


 3枚目かあ……しかし、コレを使ってしまうと打ち止めになってしまうんだよなあ。

 相変わらずカードの枚数は増えやしない。


「スライム、とかどうでしょうか」

「なんでまたスライムなんだよ?」

「スライムは意外と知能が高いのではないか、という学説もあります」


 スライムには脳という器官が存在しない。

 即ち、本能のみで生きている、はずなのだが。

 この行動はどうみても知能がある、としか思えないものばかり。


 ダンジョンの迷路を覚え、餌の豊富な場所、自分の住処などへの行き来は、道筋を記憶しているとしか思えない。

 戦闘においても、戦場や敵の種類により攻撃法方を変える、などは、知能が有る存在の行動ではなかろうか。

 人間に飼いならされたスライムは、人の言葉を理解しているかのように、ちゃんと言う事を聞いて行動したりもする。


 そんなスライムに、実際に脳という器官が出来たなら……


「なるほどな、確かに前世でも、単細胞であるスライムのような菌の一種が、迷路を最短経路でクリアするなんてのがあったな」


 確かなんだったっけアレ、細胞レベルで記憶して、尚且つ、別の細胞にまで情報伝達するとか?


「試してみる価値はあるな……しかし、武器や防具になってしまうと……」


 スライム製の鎧、役に立つのだろうか?

 あれか、装備した者を徐々に溶かすとか? 呪われてんジャン!


「スライムのレア種に、メタルスライムなんていう者が居ます」


 ほうほう、メタルスライムであれば、万が一装備品になっても硬くて軽い素材となる。

 スライムぐらいの重さって、ほぼないに等しい。

 それなのに鉄なみの防御力を誇る。


 なるほど、いいなソレ!


 よし、さっそくメタルスライムゲットしに行くぞ!

 などと、張り切ってダンジョンに向かったのだが……


「居やしねえ……」


 影も形も見当たらない。

 レアモンスターって、どうでもいい時は結構出るのに、いざ探すとなるとほんと見つからないよな。

 これが所謂、物欲センサーって奴なんだろうか?


 そもそもダンジョンにはスライム自体がそんなに多く居ない。

 かといって草原ではレア種がほとんど見受けられない。

 メタル種なんて草原では見かけた事すらない。


 本日も収穫なくトボトボと店に戻るオレ。


「どこに行ってたの?」


 そんなオレを目ざとく見つけたエクサリーが問いかけてくる。


「いや、ちょっとダンジョンに……」

「まだそんな危険な事しているの? もう冒険者なんてしなくていいのに」


 そんな事言っても、ラピスのレベルも上げないといけないし。


「上げてどうするの? ねえ、私達とこのまま、この店で暮らしていくのは嫌なの?」


 なんて事を聞いてくる。


「クイーズはいつか、ここから、出て行くの?」


 そんなつもりはない。ないはずだ。

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