ルーラルネットワーク
津笠
第一話 閉塞
知り合いの紹介を繰り返せば6回で世界中の人と繋がれるって知ってた?
でもそんなの、あくまで仮定と確率の話……多分あたしがやってみたところで10回やってもこの村から出ることさえできないはず。田舎ってそんなもの。
何度やっても同じ人たちの名前ばっかり挙がって知らない人はいないも同然の扱いを受ける。だから田舎はコミュニケーションが大事なの。
みんな、すごく少なくてすごく近くてすごく短い。だから情報はネットワークをすぐに駆け巡るし、ネットワークは互いを強く固く縛り合ってる。少しだけ羨ましいようでキモチワルイ世界。
大人になりきれない子供達はみんな必ず「都会に行きたい」と親に宣言する。親はそれに対して必ず「オメみてーな田舎モンにゃ無理だ」という。何代も前からこれは決まっている。夢破れた子供はなんとかして田舎ネットワークと同化するしかない。それでも都会に行った子は知らない。情報なんて入ってこないんだもん。
あたしはこの田舎の閉塞感に辟易している。入ってくるのは常にくだらない情報ばかり。誰が何をしたとか、そんなもの。情報が少ないんだもん、しょうがないよ。くだらないけどね。だけどそれはくだらないどころか寧ろ怖いことなんだっていつも思う。この閉塞的な田舎ネットワークは常に村人を監視している。他と違う動きを見せればすぐに共有される。酷くなれば村八分。今どき誰かを村八分にするなんて言い出す人は流石にいない。だけど無意識下でそれは成立している。あの人は違う。あの人はおかしい。あの人は悪い。そういった情報が常に共有されてるんだからネットワークは一瞬でその誰かを弾き出す体制になるの。
あたしはいつも怯えている。いつかそれが自分にならないか。余計なことを言ってしまわないか。
常に待ち構えられているような感じがする。誰かが失言することを。そして言質を取られたら最後、情報はネットワークを駆け巡る。大人達は躍起になって失言者を叩いて回る。彼らにもはや人権はない。
田舎生活は情報戦だ。閉塞的なこの地では、情報を上手く操作できる者が生き残る。そう、これはサバイバル。あたしは生き残ってこの村から出るんだ。でも、そんなことは誰にも言えない。親にも「都会に行きたい」なんて言えない。失言をしたら最後、私は叩きの的になる。大人は嬉々として私を叩くだろう。親不孝、村の秩序、足並みのような、田舎ネットワークで共有された「常識」を武器に殴りかかってくるだろう。そこに正義はない。あるのは嗜虐性と同調性。ネットワークが縛り付ける圧力で村人は心を歪ませている。
はっきり言ってあたしはこの村が嫌い。キモチワルイ支配と同調圧力で満ちている。誰が情報を有利に使うか。ヘゲモニーは誰にあるか。無意識的な感情が表に溢れ出ていることに誰も気付きやしない。気付いていないのか気付いていないフリをしているのか、彼らはみんないつもニコニコしている。
今日来た転校生のあの子は気付かないかもしれない。都会の子は田舎の悪意に触れたことなんてないでしょ。だから教えてあげないと……
田舎生活は情報戦だ。教えてあげないとあの子は
―この村では生き残れない
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