出来れば今日!

紀之介

夕方ぐらいにまでに 宜しく。

「湖愛、無理言って悪いんだけど…」


 電話を掛けてきたのは愛紀でした。


「── 例の7万円、早急に返して欲しい。出来れば今日!」


「え?」


「いきなり なのは承知してる」


「げ、月末って約束じゃぁ…」


「ホント、ごめん。」


「うーん」


「じゃあ、夕方ぐらいにまでに 宜しく。」


「ちょ、ちょっとぉ…」


----------


「7万円が直ぐ都合出来るぐらいなら…お金なんか借りてないって……」


 途方に暮れる私。


「カードローン?」


 ノロノロとネット検索を始めようした瞬間、紀湖から電話が掛かって来ました。


「私のお願い、聞いてくれる?」


「いきなり…何?」


「とあるモノを、預かって欲しいかなーって」


「は?」


「迷惑料は7万円。」


「め、迷惑料?!」


「湖愛の懐を…応援するのに充分な金額でしょ?」


「…」


「否定の言葉がない様なので、早速持ってく」


「え?」


「詳細は、現物を見てから要相談と言う事で♡」


「ちょ、ちょっとぉ!!」


----------


「これ…何」


 テーブルの上に置かれた<黒い箱>。


 その中には<なにか>が入っていました。


 ── 言語化出来ない色と形状のものです。


 何故か視線を逸らす事が出来ない私。


 同じ様に<なにか>を凝視している紀湖に訪ねます。


「植物の種?」


「芽みたいなのが、出てるよねぇ」


「卵??」


「そんな感じもするけど…」


 ノロノロと左手を上げた紀湖は、顎を押す事で無理に<なにか>から視線を逸らすや否や、素早く箱を閉じました。


「中毒性があるのか…いつまでも見入ってしまうんだよねぇ」


「そんな危険なものを、私に押し付ける訳?」


「だからこその、迷惑料」


「…」


「で、どうする?」


 当面の7万円が必要な私には、声を絞り出す事しか出来ません。


「判った、引き受ける。。。」


----------


「湖愛! お金の都合は…」


 いきなり、私の部屋のドアを開けた愛紀が固まります。


「な、なんで 紀湖がここに?!」


「愛紀こそ…」


「わ、私は…湖愛に貸したお金を返して貰いに……」


 テーブルの上に置かれた<黒い箱>に気が付いて動揺する愛紀。


「そ、それって?!」


「あなたが何とかしたがっていた ア・レ」


「ど、そうしてココに…」


「7万円で、湖愛が引き受けてくれた♡」


「…へ?!」


----------


「ずっと私、この箱を持て余していて…」


 私の前のソファに座った愛紀は、テーブルの上の<黒い箱>を凝視していました。


「とにかく…どうにかしたくて。で 相談したら……」


 愛紀の左隣に座っている紀湖が、意味ありげに微笑みます。


「幾らか お金を付けたら、引き取ってくれる物好きがいるかなーって」


「うー」


「実際、いたし♡」


「ううー」


「私…無理強いは してないよ?」


「うううー」


「因みに…湖愛と愛紀と知り合いだったのは、ぐ・う・ぜ・ん だからね」


「…ホントに?」


----------


「はい、コレが約束の お・か・ね」


 紀湖は、自分の横に置いていたバッグから、封筒を取り出しました。


 中に1万円札が7枚入っているのを見せてから、私に差し出します。


「た、確かに…」


 受け取った封筒を、私は愛紀に手渡しました。


「じゃあ、借りていたお金」


「ん」


 手渡された封筒を、愛紀が紀湖に差し出します。


「立て替えで、湖愛に払ってくれた7万円」


「はーい」


 結局お金は…3人の間を一巡して、紀湖の元に戻りました。


「─ ねえ。愛紀」


「何? 湖愛」


「なんであの7万円は…紀湖の手元に戻っちゃうの?!」


「よく解んない。。。」


 先程のバッグに、いそいそと封筒を仕舞い込む紀湖。


「ほら、お金は 天下の回りものだって言じゃない?」


 ジト目の私と愛紀を気にする素振りも見せず、弾む声で呟きました。


「─ だから、気・に・し・な・い♡」

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出来れば今日! 紀之介 @otnknsk

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