月曜日のサボタージュ

霜徒然

-1-

 まろやかな日が首元を照らす。ひしめき合うスーツとむせ返る整髪料。唇に真っ赤な彩をひくロングヘア。たまに揺れる世界は不規則に、それでいて一定の間を置いて進んでいる。

 タタンタタン。

「まもなく××~××~。御降りのお客様は~」

 伏し目がちの睫毛と柔こい猫毛に、ぐるりと回る扇風機の風がいたづらに吹く。この国特有のじめっとした空気が充満する。

 タタンタタン。

 速度を落とす箱に反比例して少し駆足になる心拍数。ゆっくりと、目を開く。

 タタン。

「ご乗車ありがとうございました~××~××です。御降りのお客様は~」

 数多のスーツとロングヘア、そして制服が軒並み外界へ消えて行った。そう、制服だ。

 機械的に閉まるドアの最後の一点がただの壁に戻るのを見つめながら、そっと胸を撫で下ろす。自らの腰を覆う紺碧のスカートの端に触れながら、微かな緊張感と高揚感に包まれた私は改めて周りを見渡した。車内には目の前の席のサラリーマンと自分だけ。

 まあそんなことはどうでもいい。そう思って再び眠りに落ちた。


「終点、青ヶ岬~青ヶ岬です。ご利用〜」

 まだ朦朧とする頭を徐に振り、フラフラとドアに向かって歩き出した。眩い陽が冷えた肌を滑り、心地よい。磨かれ光沢を放つ黒いローファーが反射光でぴかりと輝いた。一呼吸置いて、古いアスファルトに降り立つ。と、同時に世界は分断され、車体は滑り出し、駅には自分だけが取り残された。磯の香を鼻腔が掠め、髪とスカートを風が仄かに揺らす。

 月曜日のサボタージュ。なんと良い響きだろう。

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