2020年1月下旬(1) 強制徴募隊はにこやかに

強制徴募隊プレス・ギャング:ナポレオン戦争まで英海軍が行っていた水兵を強制的に集める臨時編成の小部隊をいう。棍棒など非致死性の武装をした水兵隊が街へ繰り出して商船の熟練乗員や乗船経験のない陸者おかものを力づくで捕らえて軍艦に連れ帰り強制的に海軍水兵とした。英海軍艦艇は航海中に水兵が不足していた場合、アメリカ商船などを止めて臨検を行い英国人と認定したらやはり連れ帰って水兵にしており、第二次英米戦争の遠因ともなった。



古城こじょうミフユ


 夜、女子学生寮の自室で寝巻き代わりの大学トレーナーに着替えてデスクランプをつけて翌日ある歴史の予習をしていた。プレス・ギャングねえ。なんとも酷いやり方があったものだわ。


 するとドアがノックされた。読んでいたものが読んでいたものなので嫌な感じ。


「はーい。開いてますよ」


 と言うやいなやドアがバンッと大きく開かれた。そこには1年先輩の北見きたみ朱理あかり先輩と同級生の中谷なかたに皆美みなみ西田にしだ摩耶まや比嘉ひがふみよの四人が立っていた。みんなも私と同様にトレーナー姿だった。まあ、寮内は家みたいなものだからそんなもの。


 中谷なかたにさんが4人を代表して言ってきた。

「折り入って話があるんだけど、ここじゃなんだから食堂に来てくれない?コーヒーを奢るからさあ」


 すかさず聞いてみた。食いつくに値する餌じゃなきゃイヤ。

「本物?」


 あれっ?すぐ答えが帰ってこないや。あー、中谷なかたにさん。インスタントコーヒーを考えていたよね。そう思わせる間の後で清水の舞台から落ちて骨折する事にしたらしい。


「い、いいよ。レギュラーコーヒー奢るから!」


 私はトレーナー姿のまま部屋を出て一階の食堂へ。四人の後をついて行った。なんかプレス・ギャングに連れ去られている気分というのは何の予感だろう?


 食堂の一角に寮生が自主管理している区画があって簡単な自炊や飲み物を作れる事が出来た。コーヒーや紅茶も置いてあって使った分の金額を備え付けの代金収納用の貯金箱に入れたらいいようになっている。


 中谷なかたにさんが北見きたみ先輩や西田にしださん、比嘉ひがさんをつついて小銭を集めると「食堂管理委員会」と書かれた貯金箱にお金を入れてコーヒーサーバーの上にドリッパーとペーパーフィルターをセットしてたっぷりコーヒー豆の粉を入れた。


「全部中谷さんたち持ちでは悪いから私が淹れるよ」

「じゃあ古城さん、よろしく」


 中谷なかたにさんはあっさりと後の工程を私に譲ってくれた。コーヒーへの執念が強いお母さんに似てしまったようで下手な淹れ方されるなら自分でやった方がいいやと思うようになってしまった。まさかこんな所が似るとはねと自分でも呆れる。お湯を少しドリッパーに入れて蒸らすと聞いた。


「で、一体どういう話?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る