最終話 ウエディングドレス

 結婚式というのは、人生のエンドロールのようだと思う。これまでの人生で私を、彼女を形作ってくれた人を集めて。互いの人生を振り返って。大団円とするには申し分ない。

「いい式だったね。準備してきた甲斐があった」

「うん」

 私は後部座席に座るユカに声をかけた。私の運転する車は、目的地である自宅へと近づいていた。

 駐車場に車を停め、後部座席のドアを開ける。少し動きづらそうに体を屈めて、ユカが車を降りる。パニエで膨らんだ純白のドレス、デコルテの下まで露わになった肩。流石にヴェールはないけれど、無理を言ってウエディングドレスで帰ってきてもらった。

「綺麗だよ、ユカ」

 私はユカに手を差し出し、ユカがそれを取る。手を繋いだまま、私たちは扉の前まで歩いた。そして、私たちは帰ってきた。これまでのひと月、私たちが一緒に過ごした私たちの“家”に。

 家の鍵を開ける。ユカの手を離して、一足先に家に入る。タキシードの裾を翻して振り返り、私はユカに両手を広げた。

「おかえり、ユカ!」

 ユカは輝くような笑顔で私の腕に飛び込んだ。

「ただいま!」

 そう、何もスタッフロールが流れるのは、エンディングに限った話ではない。オープニングクレジットというものもある。これは、私たちの新しい生活の始まりなのだ。

 私たちはキスをした。誓いのキスじゃ全然足りない。強く強く抱き合いながら、深く深く。唇を重ね合わせて、舌を絡めあって、熱い息を交換する。ユカの息が上がる。私はユカの肩をまさぐる。背中に手を這わせて、感触を味わう。滑らかでしなやかな肌の下に、肩甲骨と背骨の存在を感じる。ドレスと体の隙間に手を滑り込ませて引きおろす。ワイヤーで支えられていた胸が露わになる。キスの場所を唇から首筋に移す。

「ちょ、ちょっと!今ここで!?」

 手をバタバタさせて抗議するユカを壁に押し付ける。

「うん、もう1分1秒も待てない」

 そう答えると、逃げられないように抱きしめながらユカの胸にキスをした。柔らかさを唇が伝えてくる。そうだった。ユカの胸はこんなに柔らかいんだった。

「まだシャワーも浴びてないんだよ!」

 なおも抗議するユカを、上目遣いで見上げながら私は言った。

「……ユカが本当に嫌なら、今夜はしない。たとえ夫婦でも、合意のないセックスはレイプだからね」

 それを聞いたユカは、目を泳がせて顔を背ける。

「……いじわる」

 うつむいてそう言ったあと、ユカは私の両頬に手を添えて、顔を向き合わせた。

「私だって、もう我慢できないもん」

 そう言って、ユカは私ともう一度キスをした。私はスカートの中に手を差し入れ、太ももを撫で上げる。

「あんっ」

 私はユカに後ろを向かせる。壁に手を突かせてスカートを捲り上げると、白くて華奢な下着が露わになった。それは既にいやらしく湿っていて、誘うように腰を左右に振っているように見えた。


 そのあと起きたことを全て詳細に記せば、ノクターンに移籍しなくてはならなくなるだろう。なのでただひとつ、翌朝起きた時はふたりとも生まれたままの姿で抱き合っていたということだけをここに書いておく。

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