第十一章 鬼原 1-4






「な?わかったやろ。この特技のお陰でこの仕事ができるから、感謝感謝やな。ちっちゃい頃は困ることも多かったけどな、思春期にはこの力にぎょおさん、世話になったわ。あ、なにに使うたとか、そんな野暮やぼな話はせんといて」



「なんの用ですか。それにあなたの仕事って一体なに?」



「なにって、うちの会社はこの世に未練タラタラな霊たちが未練を晴らすためのお手伝いをする健全な会社やで。成仏するためには煩悩が多すぎる子達に徳を積ませたることで、あの世に送ってあげましょ言う仕事や。それは置いといて、ほんのちょっとの間で手懐けられてしまったもんやなぁ」



俺はすっかり敵かいなと、鬼原はわざとらしいため息をついた。



「なあ、嬢ちゃん。よお考えてみぃ。あの兄ちゃんかて、さらうようにあんたをここにつれて来たんとちゃうんか。とにかく、ここは仲良く行こうや。ほい、これ土産みやげ。嬢ちゃんにあげる」



抵抗するマリカの腕は鬼原を通り抜けていく。

けれど鬼原はというと、マリカの体をいとも容易たやすく押さえつけ、涼しい顔でマリカの着物の懐に何かを押し込んだ。



「嫌!なに」



鳴子なるここけしのちっちゃい版や。東北の温泉土産と言うたらこれやで。自分とこもお土産に力入れとるか?野沢菜のざわなやら十割蕎麦やら、そんなん長野の土産屋でならどこでも買えんねん。『あ〜温泉やなっ!』ていういかにもな土産作らなあかんで。参考に取っとき」



「ちょ、ちょっと」



「なあ、自分。あのイケメンの兄ちゃんとどう言う関係なん?」



誰のことかと戸惑ったのは一瞬だった。

和泉の秀麗な顔が頭の中に浮かんでくる。



「別に、ただの雇い主です」



「ごまかしいなや。なんや死に別れの恋人同士とか、そういうのとちゃうん」



「違います!なんでそんな風に」



「なんでって自分、死んだのいつやった?考えたらわかるやろ。ずっと誰かに守っててもらわな、あんたみたいな可愛らしい子はすぐに悪い大人にさらわれてしまうで。誰が守っててくれてたんやろ」



「そ、それが和泉さんだって言うんですか」



「さあ、わからん。わからんから聞いてんねんけど。なんや、お嬢ちゃんも知らんのかいな」



「でも、だって、おかしくないですか。計算が合わないもの!あの人はどう見ても二十代かそこらで、生まれてそれしか経っていないのに、どうしてそんなことができるっていうんですか。第一、何のために」



「せやねん、そこや。なあ、噂を聞いたことあるんやけど、あのお兄ちゃん、ほんまは幾つなん?」



「だから二十代だって」



「ほんまに?」



「……え?」



「あんたは死んでも、まるで生きてるみたいに暮らしとる。それだってまあ、素敵なことやけどな。もっともっと、一番素敵なことがあるやろ?」



「一番、素敵なこと?」



「そうや。なあ、なんやと思う?」



鬼原の瞳が怪しく光った。

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