第九章 思い出1-5








「はりゃ?」



マリカの小さな叫びが聞こえた気がして紺が振り向くと、来たときに使ったドアが消えていた。


誰かが閉めてしまったらしい。


紺の魂の端っこがそのせいで外れてしまったのか、大自然の風に揺られてふわり、ふわりと漂っていた。








その日、和泉は日本に数多あまた存在する霊場の管理者の一人として、とある会議に出席していた。


各長の管理する霊場で一月のうちに起きた問題や、新入りの霊などについて報告し合い、問題がある場合は議論するという場で、会場は毎回、異なるが、

今回は青森県下北半島の中央部に位置する恐山が担当だったために、移動にはなかなかに骨が折れた。


今、和泉は丸一日かかった定例を終えて、露天に浸かりながら身体を伸ばしているところだ。


日本三大霊場の一つである恐山菩提寺おそれざんぼだいじがあることで有名な恐山だが、霊場内に温泉が湧き、共同浴場として利用されていることは実はあまり知られていない。



「温さん」



和泉の元に、山梨・忍野八海おしのはっかいを担当する男が声をかけて来た。



湯の中でも首や耳のシルバーアクセサリーを外さない彼、富士見に和泉は眉を寄せたものの、明るい髪や砕けた口調に反したこの若者の仕事への生真面目さは以前から買っていた。



「お久しぶりっす」








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