第71話 最後の危機
久しぶりに輝夜が帰ってこなかった。
どうしたんだろう。
何か面白いことでもあったのだろうか。
そんな風に考えながらぼうっとしていると、俺の中から扉が開いた。
神様だろう。輝夜がいなくなったのを見計らってきたらしい。
情けない。神様なんだからもっと堂々とくればいいのに。
まあ、俺が輝夜からあんな感情を向けられたら、全速力で逃げるけど。
そう考えると情状酌量の余地はあるな。
いつもの綺麗な着物姿だ。目つきが悪いのもいつも通り。
そろそろ八幡大菩薩の影響抜けないかな。
もともとと言う可能性も捨てきれないところだけど。
やっぱり神様は、木としての俺にとってはエネルギーに満ちた存在だ。
そばにいるだけで回復してくる。
「久しぶりですね、神様。時々くるとおっしゃってましたが。」
「顕現するのも大変なんだよ。あいつが怖かったわけじゃないからな。そこんとこ間違えんなよ。」
神様は威厳を取り戻すべく必死だった。適当に相槌を打っておく。
「あいつはいないか。」
露骨にホッとしている。
神にここまで言わせるとは。輝夜恐ろしい子。
「それで、何か用があるんですか?」
「なんだよ。用もなくきちゃダメなのか?」
「いや、俺としてはありがたいですよ。」
「それでいいんだ。いや、気になることはあるんだが。」
「というと?」
「嫌な感じがする。」
「感じ、ですか。」
「俺だけじゃないぜ。イザナギの父上とイザナミの母上もそう言っている。」
カヤノヒメって、そんな有名どころの子供だったのか。国生みの二神だろ。
神様たちの関係は気になるところだが、それよりも大事なのは、その嫌な感じの正体だ。
「具体的にどんな予感なんですか。」
「この前の戦争の終わりに来た、あの原爆ってやつに似てるな。うなじがチリチリしやがる。」
「ほんとですか?!」
そんな出来事なかったはずだ。歴史が変わったのか。正直もう一度なんとかできる気はしないんだが。
そろそろミサイルが実用化されるはずだ。水爆もビキニで実験したと言う話を聞く。
ただの杉では流石に厳しい。第三次世界大戦なんて冗談じゃない。
あれか。冷戦を回避するように動かなくてはいけないのか。ソ連の崩壊を早める工作をするべきだろうか。
いやでも、一歩間違ったら核戦争が起こるんだろ?
怖すぎて何もできない。
「どうも生き物のような感じがするんだが。わからん。」
原爆と、生き物? それほど相反する言葉もないように思うんだが。
「とりあえずあれだ。あの怖い女に秘道具アーティファクトを作らせとけ。それが鍵になるだろうぜ。」
「はあ。」
神様、輝夜の能力把握していたのか。
ありがたく頷いておこう。
ただアドバイスをくれるだけなんて、神様らしくない気もするけど。
「なんだか殴られたそうな顔してるな。」
「気のせいです!」
全力で否定しといた。
気分は上司に逆らえない部下だ。
殴られた分以上に回復するから気にしなくてもいいのだけが救いである。
二、三発俺をサンドバッグにしてから神様は帰っていった。
なんだろうあの人。ただストレス発散がしたかっただけなんだろうか。
●
白と明が結婚するらしい。
花火の時デートしてたし、もっと早くにそうなるものだと思っていた。
もしかして、俺が第二次世界大戦対策を進めていたからか。
悪いことをしてしまった気がする。
いやでも、そうしないと多分俺が燃えてしまっただろうし。
悪かったなとは思いつつも、仕方なかった。
うちの下で挙式してくれたので、俺は満足だ。
孫が結婚するのは感慨深い。
ウェディングドレスも綺麗だ。
明と白はこっそりお礼を言ってたけど、それはこちらのセリフだ。
幸せになってくれ。
と、しばらくしたら、子供ができたらしい。名前はミトにするそうだ。
独特のセンスだ。敷島ミト。割といいのかもしれない。
正直もうV○uberのストックはなかったから助かる。⋯⋯ところで、委員長由来じゃないよね?
偶然だよね?
●
輝夜に頼んで、技能「秘道具作成」を使ってもらった。
出てきたのはこれだ。
仏のみいしの鉢
効果 「人類の脅威特防壁(一回)」
やはり、竹取物語シリーズだ。燕の子安貝は出てくるのだろうか。
そして、割としょぼい。
いや、神々しい光を放つ鉢だからめちゃくちゃ目立っているけど。
木の上に置くのはダメだろう。
倉庫に入れとこう。
こっそりうろを作っている。雨の日のためだ。正直、負担だが仕方ない。
そういえば、一番最初に作った秘道具アーティファクトも入れてたな。
どんな効果だったか、忘れかけてるけど、確かだいぶひどかった気がする。
久しぶりに見てみた。
サラサラとした薄衣だ。空気のように軽い。
天人の羽衣
効果
「記憶喪失」
「最適化」
「洗脳」
「飛行」
そうだった。忘れてた。
ひどい道具だったんだ。ファンタジーで言う奴隷の首輪の能力に申し訳程度に飛行をつけたもの。
うん。この時代でも使えないな。
世界征服でもするのなら別だけど。
これは置いとこう。
で、この仏のみ石の鉢が必要になるんだって?
なるほど。人類の脅威か。とてもファンタジーだね。
俺以外にもファンタジー生物が出てくると言うことかな。
なるほど⋯⋯。
みんなに相談してみた。
愛が黙って、映画のパンフレットを見せてきた。
「大怪獣」
そう書いてあった。
わかってしまったかもしれない。
神様の言う嫌な予感の正体。
東京湾に原爆は沈んだ。なら、ありえないとはいえないだろう。
そりゃ生物と原爆の合わせ技になるはずだよ。
みんなに気をつけるように頼んでおいた。
いや、ほんとどうしよう。
怪獣王って、どうやって倒せばいいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます