第28話 太田道灌
私は
周りからは城造りの名人と呼ばれている。
河越城も
どちらも名城だと自負している。
さて、当主様から、房総の千葉氏に備える城を新たに作るように言われた。
私の腕を見込んでのことだろう。
光栄だ。
どの辺りがいいだろうか。
私は、本拠地の
お忍びというやつだ。
危険はあるが、ワクワクする。
私は利根川を遡ることにした。
徐々に大きな木が近づいてくる。
有史以前から生えているという噂もある杉だ。
名を大和杉という。
関東のどこから見ても目立つ。
あれが近づくと帰ってきたという気持ちになれる。
近づくに連れ、その樹皮がはっきりと見えてくる。
力に満ちた様子だ。
こんな場所に一人で立っているというのに、ひたすら堂々として雄々しい。
関東の人間が中央に対して独立志向で向かうのはこの杉の存在があるのではないだろうか。
ただの予想に過ぎないが、そこまで間違ってはいないだろう。
見るだけで意欲が湧いてくる気がする。
あの杉も、何千年もの間、ひたすら背を伸ばすことに全力を注いだのだろう。
だからこそあの勇姿があるのだ。
ふむ。ならば、あの杉の近くに城を築くのも悪くないかもしれん。
そばに陣を敷くのはタブーと聞くが、川を挟んだ向かい側ならば許されるだろう。
あの辺りは、確か江戸氏の支配地だったか。
あの氏族はこの頃力が衰えている。
私が守る方がいい。
私は江戸氏を追放し、大和杉対岸の海に近いあたりに城を築くことにした。
堀を作り、周囲に寺社を作らせた。良い陣地となるはずだ。
名前は江戸城だ。これから何百年と栄える城になるだろう。
そんな予感がする。
あの大和杉のそばにあるのだ。
その長命にあやかれるに違いない。
そういえば、美しい女が城を築く目的を聞いてきた。
なぜか隠す気にもならずに喋ってしまった。
この私としたことが不用心だ。
女は納得したように頷くと消えていった。
誰だったのだろうか。
非常に美しいという印象だけが残っているが、顔はよく思い出せない。
そういえば、大和杉には妖怪が住んでいるという噂を聞いたことがある。
もしかしたらその一人なのかもしれない。
敵意は感じなかった。
納得させられたようだし、問題はないだろう。
全く不思議な木だ。
私は、間近にそびえるその木を見上げるのだった。
何かが樹上で動いた気がする。あの女かもしれない。
手厚く祀っておこう。
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