第29話 河越夜戦
四人は名残惜しげに帰って行った。
北条で重用されている彼らは休暇も満足に取れないのである。
ずいぶんリフレッシュしていたようなのでよかった。
ところで、昨日配下のステータスを確認していたら気づいたのだが、輝夜の技能で一度も使ってないやつがある。
輝夜
技能「黄金生成」
「全体自動回復」
「秘道具アーティファクト生成」
「忍術上級」
「軍勢召喚中級」
「諜報中級」
「呪術中級」
技能「秘道具生成」。
うん。なんで見逃してたんだろうか。
色々悪さができそうだ。
輝夜に使うように言った。
なぜか嫌そうな顔をして、生成を始めた。
6時間くらい経って、輝夜の腕の中に何かが生まれた。
遅い。
いや、無から有を生み出してるから早いと言えるかもしれないけど。
輝夜は疲れ切っているようだった。
はあはあと喘いでいる。なるほど。
思っていたよりやばい能力だったようだ。
命を削っているのかもしれない。
そこまでして使って欲しいとは言えない。100年に一回くらいお願いしよう。
輝夜が生み出した秘道具を調べてみる。
天人の羽衣
効果
「記憶喪失」
「最適化」
「洗脳」
「飛行」
なんだ、これ。これはひどい。
奴隷の首輪と似たり寄ったりのアイテムじゃないか。
申し訳程度に飛行がついてるが、基本的に相手を洗脳することしか考えていない。
これ、輝夜が狙って生み出したのか?
聞いてみると、出てくる道具は完全ランダムらしい。
コスパはいいのか悪いのか。
ファンタジーな道具が作れるのは間違いないけど、効果が選べないのはマイナスだ。
とりあえず天人の羽衣は預かっておいた。
これを使う日がこないことを祈ろう。
●
北条氏綱は死去した。
早雲の後を継いで、よく北条を拡大させた。
名君と言って差し支えないだろう。
後を継いだのは北条氏康だった。26歳の若さである。
世代交代はどんなにスムーズに進んだとしても隙が生まれるものだ。
今川義元が、このタイミングで挙兵した。
山内上杉、扇谷上杉と連携し、氏康を挟み撃ちにする。
義元は、当主になった際、北条先代の氏綱に攻められて領地を失っている。
その意趣返しであった。
なんとか武田晴信(のちの武田信玄)に連絡をとり、斡旋を頼むことができた。
愛と小太郎の力である。
技能「雲乗り」と技能「忍術」は密書を届ける上で最強に近い。
領土を譲ることで今川との和睦を成した氏康は関東にとって返した。
猛将、
だが、そろそろ限界が近い。そんな情報がもたらされた。
氏康は決断する。
八万の軍勢に八千の軍勢で夜襲をかける。
自軍がはるかに少ない現状、それしか方法はなかった。
連絡役である愛に密書を持たせる。
「4月20日、子の刻(0時ごろ)に夜襲をかける。挟撃を頼む。」
小太郎とともに、上空から侵入、すでに顔見知りとなっていた綱成に渡した。
綱成は大いに喜んだという。
そのまま、愛と小太郎は河越城内にとどまった。
ところ変わって、氏康本陣。
将門と銀孤は索敵を担当している。
彼らも十分に優秀だ。
両上杉軍の警戒網に引っかかることはなかった。
北条軍は、敵陣近くまで侵入することに成功していた。
時々斥候がやってくるも、将門の警戒網に入って殺されていく。
銀孤は将門に警戒を任せてもう少し近づいてみることにした。
普通の村娘の格好で歩いて行く。
道の途中に番屋があって、関所となっていた。
「すみません。何が起こっているんですか?」
口調はいつもの目立つものではない。情報収集には普通の口調が最適だ。
「なんだ、お前は? どうしてここにきた?」
「おじの家に向かう途中です。私の家は田舎なのでよく知らないのですが、戦争でもやっていらっしゃるのでしょうか。」
「ああ。関東管領が逆賊である北条を滅ぼそうとしているんだよ。」
「管領様⋯⋯。どちらにいらっしゃるのでしょう。方向だけでも教えていただけないでしょうか。」
「そんなことを聞いてどうするんだ。」
「そちらを避けていかなくては。恐れ多いですから。」
「ふっ。管領様はあちらだ。」
兵士は林の向こうを指差した。
銀孤は素早く記憶する。
「おい。そんなこと話していいのか。」
「いいんだよ。冥土の土産ってやつだ。第一、女を前にして見逃すって選択肢がないぜ。」
「それもそうだな。」
「というわけでお嬢ちゃん。あっちの草むらに行こうぜ。おじさんがいいことしてあげるよ。」
銀孤が化けていたのはそこまで綺麗な娘ではなかったはずだった。
だが、長年輝夜を見慣れていた銀孤は普通のラインを見誤った。
銀孤の化けていた娘は兵士達にとって村一番以上の美貌だった。
このころの兵士は野盗と変わらない。
略奪放火は当たり前で、よっぽど軍規が厳しくないと一般人はカモとしか見ない者がほとんどだった。
そんな中、のこのこ現れた美人である。
当然、犯すつもりだった。
「くっ。」
腕を掴まれた銀孤は躊躇した。
この関所の人間を皆殺しにしては、両上杉軍を警戒させてしまう。
その間に、彼女は草むらの中に連れ込まれてしまった。
濁った欲望が向けられる。
焦って、呪術がうまく発動できない。
ベースが変化先と同一のものになってしまうためだ。
今の彼女には普通の村娘並みの力しかない。
目をつぶった。
荒い息遣いが聞こえる。銀狐の思考が絶望に染まっていく。
不意に音が止んだ。
目を開ける。
飛ぶ首と、赤い鮮血。
刀を振り切った状態で、平将門がそこにいた。
「何やってるんだ。お前の実力はそんなもんじゃないだろう。」
呆れたような口調で、彼はそう言った。
トクン。銀孤の心臓は高鳴った。
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