第41話 明の西洋見聞録 承

 明は仙台にやってきていた。




 愛と小太郎は大和杉と銀孤が抑えている。




「昔から可愛い子には旅をさせろと言うじゃないか。」




「いや知りません。」




 と言う一幕もあったが、なんとか説得できた。




 ちなみに、まだそのことわざは人口に膾炙かいしゃしていない。




 旅という概念が広まるのはもう少しあとだ。






 彼女は支倉常長はせくらつねながと面識を得た。




 今回の渡航の最高責任者だ。




 政宗は彼女を、自分の落とし胤だねとして紹介した。




 そちらの方が大事にされるだろうという判断だった。




 意図した通り、常長は明を敬うようになった。




 日本側のトップである彼が敬意を払う相手として明は注目されることになる。






 スペイン人のルイス・ソテロも彼女の良い話し相手となった。




 宣教師である彼は、語学に堪能だ。


 数年で日本語の通訳ができるようになるほどだった。




 明は彼からスペイン語を学ぶこととなる。




 どうせなら英語が良かった。




 後で必ず役に立つし。




 とはいえ、このころのスペインは日の沈まぬ帝国と呼ばれる大国だった。




 この時点では、悪くない選択肢だったことを追記したい。




 ついに出航の日取りとなった。




 ガレオン船。


 サン・ファン・バウティスタ号。




 スペインの探検家の力を借りて作られたそれは立派な帆船だった。全長55m、幅11mの巨大な船だ。




 これで太平洋を越え、メキシコまで航行することになる。




 盛大な見送りが行われた。




 見物客の中に父と母を見つけた明は泣きそうになった。




 娘の門出を祝う小太郎と愛は、辛いのをこらえて手を振っていた。






 その晩、政宗は己の居室に、大量の黄金が置かれているのを発見する。




 慌てて確認するが、誰も中に入ったものはいないという。




 怪しみながらよく調べていると、手紙が入っていた。




 明が世話になったことへのお礼が達筆な字で書かれていた。




 名はない。




 今更ながらに明の素性に思いを馳せる政宗。




 独自に調べさせたが何も浮かび上がってこなかった。




 あれほどの才能だ。


 よほど特殊な家で生まれたのだろうと彼は思った。








 一方こちらは海の上。




 ガレオン船は早速の嵐に見舞われていた。




 黒潮の潮流に乗って北アメリカ西海岸を目指すわけだが、太平洋は世界で一番広い海だ。




 当然困難も多い。


 船酔いに大時化おおしけ、巨大ザメ。




 色々な脅威が襲いかかってくる。




 巨大ザメを明が技能「単体麻痺付与」で大人しくさせた後は、船の全員が彼女を崇めるようになっていた。




 船に乗ること二ヶ月あまり。




 北アメリカ西海岸が見えてきた。




 未だ西部開拓時代は遠い。


 このころの西海岸はまだまだ未開の地が広がっていた。




 水の補給に立ち寄ったくらいで、すぐにメキシコに向かって出航する。




 この時代のメキシコはスペインの植民地として繁栄していた。




 メキシコ〜マニラ(フィリピン)の交易路も定着している。




 これは歴史上、最も長い交易路の一つだという。




 明たちはここから陸路で、大西洋を目指すこととなる。




 メキシコシティで盗人と一悶着あった。


 血の気の多い武士が切り捨てる。


 だが、それを問題視され、ほとんどの武器が没収されることとなった。




 明は一人でも戦えるので問題ない。




 愛と小太郎の両方の役目が行えるのはすごすぎる。




 この頃にはもうスペイン語も覚え、流暢に会話することも技能「諜報」で情報を集めることもできるようになっていた。




 語学に堪能なスーパー少女(50歳)である。


 希少すぎる。




 ソテロの交渉により、スペインの戦艦に乗せてもらえることになった。




 支倉常長は後ろで重々しく頷いているだけである。






 明は前で対等に交渉していたが、誰も彼女の姿は気にしないようにしていた。




 一旦気にしだすと、交渉で負けてしまうからだ。明は油断のならない交渉相手だった。




 優秀すぎる。




 彼女は、新たな環境で様々なことを吸収して行った。




 日本にいた時とは比べ物にもならないほど成長している。




 帰ったら生まれているはずの銀狐の子供に、精一杯お姉さんぶりたいという気持ちが大部分を占めていることは誰も気づかない。




 流石に察するのは無理だろう。


 一応、伊達家の姫ということになっているのだし。




 使節団はスペイン西海岸に到着した。




 首都マドリードへ向かう。




 スペインの王、フィリペ3世との謁見が行われた。




 やはり明は物怖じせず、目立っていた。




 貴族にならないかという交渉もあったようだ。




 もちろん明は断ったのだが。




 交易の交渉をした使節団は、次の目的地としてローマへ向かうことになった。




 今度はローマ教皇パウロ5世との謁見が行われる。




 歴史あるローマの建造物群に明は大興奮していた。




 スペイン王家から送ってもらったドレスを着て、気分は貴族の令嬢だ。




 でも、おじいさまより大きなのはないわねと心の中で考えていた。




 現代技術の結晶のス○イツリーに勝とうとしている大和杉と比べられても困る。




 ここでも使節団は歓迎された。




 中でも黒髪碧眼の異国の姫は人気だ。




 明はとても可愛いから当然だろう。

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