第22話 SS 現地人たちの話


 ある縄文人の話



 おいらの話が聞きたいだって、奇特な人もいたもんだ。


 おいらはただの狩人だぞ。


 そんな面白い話なんてできやしない。


 日常の話?


 そりゃ、鹿やら猪を狩るだろ。


 それから杉の下の集落にまで運ぶんだ。


 あの杉は目立つからな。感謝している。


 時々はお供え物だってするさ。


 まあ、時が過ぎたら食べるけどな。


 あんまり近づくと枝が落ちてくるとかで、普段は近づかない。


 それでも、祭りの日とかは楽しいぞ。あの木を取り囲んで祝うんだ。


 杉の方も心得たもんで、枝は落とさないし、楽しげに揺れている。


 まるで人みたいなこと言うんだなって?

 なんでかなあ。


 あいつは動かないのに、時折無性に人間らしくなるんだ。

 不思議だろ?












 とある古墳造成者の話




 いやあ、あの時は驚きましたね。

 大きな杉のそばでした。


 とても目立つ大きなお墓を作ろうとしたんですよ。


 王様からはたくさんお金もいただいてましたし。


 でも、なぜか、工事の作業員たちがどんどん気絶してしまうんですよ。


 まずい事態でした。


 決められた納期が守れないと首が飛びますから。


 私も必死に原因を探したんですが、どうもわからない。


 ですが、何遍も現場に通ってようやくわかりました。


 気絶した作業員の目覚め方に一定の法則があったんです。


 あの大きな杉から離れるほど、目覚めるまでの時間が短い。


 気づいた時は震えましたね。


 だってただの杉じゃないですか。


 いかに大きいとはいえ、植物ですよ。動かないものは怖くない。


 でも、その現象は、どう考えてもあの杉が関わっているとしか思えませんでした。

 だからね。計画を変更したんですよ。

 出来るだけ、杉から離れるようにね。


 王様は文句を言ってきましたけど、無視しました。

 王様が作ってるんじゃなくて、私たちが作ってるんですよ。


 お墓に関しては私たちの方が立場は上なんです。

 過言かもしれませんけど。

 杉から離したら、思っていた通り、工事は順調に進みました。

 やはり、杉の近くに作ろうとしたのがいけなかったんでしょうね。


 えっ? あの杉が怖くないのかって?


 いやー。確かに怖いような気もしますが、どうにも締まらないんですよね。


 今回の一件も、俺より目立つのがそばにあるのはいやだと言う理由みたいな気がしますし。


 何千年と生きてるでしょうに。妙に子供っぽいんですよあの杉。


 お供えしたら喜んでましたしね。


 杉の声が聞こえるのかって?


 流石にそれは無理ですよ。はははっ。


 たまに感情がわかる気がすることはありますけどね。


 多分、相応の思いを捧げればあの杉は応えてくれると思います。


 私も子孫たちに、敬うように伝えますよ。


 あの下に街を作る?

 うーん。どうなんでしょうね。それが皆の意思ならあの杉は拒まないと思いますが。


 まあ、今は無理でしょうね。


 のちの時代ならそう言うこともあるかもしれません。

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