(未完)Dragon Blood
お前、平田だろう!
第1話 けつドン
「……どうしようかな、この状況」
少年、と言っていいだろう。中肉中背、特筆すべき特徴は特にない。髪は黒、瞳は茶。どこにでもいそうなありふれた風貌だ。見た目は平凡だが、現在の少年を取り巻くシチュエーションは異常である。
―――目の前に広がる世界が異世界でなく、雲を突き抜けるような断崖からの落下中なのだから。
体の前面から、空気が全力でぶつかってくるが、体を浮かせるような力はない。というか少年の落下に対して抵抗があるだけで、地上に向かって落ちているという状況を覆すような逆転の一手では断じてない。デコが丸出しになっている中、取り立てて恐怖を感じていない少年はぼやく。
「やっぱアレだよねえ……けつドンでノーロープバンジーとかないよね」
穏やかな口調で、割とひどい状況説明。のんきに独り言をぼやいているが、断崖からのノーロープバンジーなど、どこかの民族の成人の儀式でもやらないだろう。今現在も命のタイムリミットは刻一刻と迫っている。なのに少年に危機感がまるでないのには理由があった。
「そろそろかなぁ……ホント、龍王様たちには感謝しかないなぁ」
本当に感謝しているらしき少年は、「んっ」と背中に力を入れる。すると肩甲骨のあたりから、光のフレームのようなものが飛び出し枝分かれしていく。光のフレームは徐々に翼の形を構成していき、間を埋めるように膜のようなものが埋められていく。ところどころに爪のような牙のような突起がある。ばさりと広がる光の翼はまるで龍の翼のよう。というより生もの感がないだけで、見た目は間違いなく龍のソレである。金色の粒子が翼からふわふわと浮いてくる。
膜の部分で空気を受けると、一気に抵抗が増し落下速度が落ちた。パラシュートを開いたように滑空を始める少年は、空を楽しみ始める。
「やっぱり、異世界なんだねえ。ここは」
言葉に情念がこもりにこもっていた。少年の目の前に広がるのは広大な森。後ろを振り返れば、雲を突き抜ける崖。遠くに見えるは距離があるにも関わらず、大きいと思える大樹。さらに向こう側には影しか見えないが、空に向かってそびえたつ塔がある。
間違いなく、日本ではないと感じる瞬間だった。
「まぁ自分に翼が生えるだけで、もう普通じゃないんだけど」
苦笑いと共に、ボヤキ癖のある少年『
「お嬢様! お急ぎください! 蛮族どもが近づいてきています!」
「ハァ……ん、ハァ……私のことはいいからお逃げなさい! ここで2人とも捕まる必要はありません!」
「おいおい、つれねえこというなよ~」
「本当だぜ、こんなところにおいしい獲物がいるとはよぉ~。2人ともおいしくいただくに決まってんだろう?」
薄暗い森の中、「ヒャハハ!」と嗤ういかにも量産といった鎧を着こんだ槍持ちの男たちが、そうとうだらしない顔で嗤いながら、2人の女性を面白半分に追いかけまわしていた。
2人の女性とは言うが、追いかけている兵士たちとは細かいところが違っていた。白い肌ではあるが病的ではない。目鼻立ちは整いすぎていて、この世の住人とは思えない。耳の先は尖っていて、明らかに人間ではない。
―――精霊種「エルフ」
2人の女性は一般的にそのようにカテゴライズされていた。
「きゃあっ」
「お嬢様っ」
呼吸が苦しくなり、顔が上を向いたことで足元がお留守になってしまったエルフのお嬢様は、土の表面に出ていた木の根に足を引っかけてしまい転倒。端正な顔に土をつけ痛みに耐えるように歯を食いしばる。立ち上がろうとするが……
「あぐっ!」
転倒の際に足をくじいたのか、右の足首を押さえ再び倒れ込んだ。侍女らしき女がお嬢様に近づき様子を見るが、走ることが出来ないと見るや追ってきた槍持ちたちの前に立ちふさがる。どこから出したか分からない短剣を逆手にもって構えながら。
紳士とは到底言えないゲスな顔で近づく槍持ちたち。
「いいねぇ~。さすがエルフ。2人とも上玉じゃねえの」
「新品ならお手当てが凄いからな……だが……」
ニヤつく男たちは、舐めるような目でエルフの2人組を視姦する。槍持ちたちはエルフを無傷で攫ってこいという命令を受けていた。だが、目の前にいるのは極上も極上。鎧で見えないが股間はすでにうずき始めている。
「なぁ」
「あん?」
「あの侍女っぽい方なら味見してもいいんじゃねえか? 一匹捕まえたら上等だろ?」
「ふむ……いいな、それ。半裸のメイドのエルフを凌辱とか興奮しまくりだろ」
「げひゃひゃひゃ」と品なく嗤う蛮族の槍持ちたち。卑猥な視線を向けられたエルフの少女たちは、半眼で睨みつける。
「……ニンゲンどもめ。女をもはやそのようにしか見れないとは!」
憤る侍女エルフの言葉に反応する槍持ち達は、その言葉に反応した。
「おいおい、何言ってんだよ家畜どもが。ちゃあんと「匹」ってつけてんだろ。対等とか思ってんじゃねえだろうなぁ」
「そりゃねえだろ。「私たちは下等なニンゲンどもには負けん!」とか偉そうなエルフの王様が胸張っていってたらしいぜ? 勇者様たちがタコ殴りにして城に連れ帰ったらしいがよ。だせえよな」
もう笑いが止まらないとばかりに腹を抱える槍持ち達。一方で足を怪我したほうのエルフは愕然とした表情だ。視点が定まらないのか、眼球が小刻みに震えている。
「そんなっ、お父様がっ」
叫びをあげるお嬢様と呼ばれたエルフ。しかしその言葉を聞き逃せない者がいた。勿論勝ちを全く疑っていない槍持ち達だ。
「ひゅ~、まさか姫様かよ。こりゃあ余計に手出しするわけにはいかなくなっちまったなぁ」
「じゃあやっぱり最初のプランで行くか」
「そうだな。おい侍女。大人しくするなら気持ち良くしてやるぜ」
「いい子にしてたら殺さずに連れ帰ってやってもいい。ただし、やることは性欲処理の肉便器だがな」
いい加減、我慢の限界だったのか、侍女エルフは無言で手に持った短剣で姿勢低く突撃する。しかし、この場にいるのは下っ端とはいえ立派……とは言えないが兵士は兵士だ。護衛役としてつけられた侍女エルフだが、本職の騎士ではなくあくまでもお世話係のたしなみとして身に付けた短剣術であった。そのため槍と短剣のリーチ、しかも人数差もあってあっけなく侍女エルフは両足を傷つけられ動けなくなってしまった。
「ぐうぅっ!」
「いよー、そそるねぇ」
侍女エルフの短剣を蹴りで弾き飛ばし、後ずさる侍女エルフを1人は後ろに回り込み両手を掴む。もう1人は、膝を掴み脚を広げさせた。
羞恥で真っ赤になりながらも未だ抵抗を止めない侍女エルフ。膝から下が自由になっていたため、鎧の上からではあるが股間につま先が当たった。
「い! ……ってえな!」
膝を掴んでいた手をはなし、拳で侍女エルフを殴りつける槍持ち。侍女エルフの口から何かのかけらが飛んでいき、鼻や口の端から血が流れた。瞳が揺れ怯えの色が見え始める。
「おい~……顔殴るなよな。萎えるだろうが」
「こっちはもうギンギンなんだぜ? そこをやられちゃあ、な!」
反対側の頬を平手ではたく。そして顎を掴んで顔を上げさせると、睨みつけては来るもののわずかに怯えが見えた。
「……へ。いいねぇ。いい感じの顔だ。じゃあ、改めて」
もう一度足を掴み膝を割る。今度は抵抗が少なかった。
抵抗が緩くなったのを確認した槍持ちは、いそいそと鎧を下だけ外し、逸物をポロリと出した。サイズは並ではあるものの、すでに血は滾っており突入を待つのみである。
「おい、中に出すんじゃねえぞ。俺もあとで使うんだからよ」
「ひひっ。お先に失礼するぜ」
「……まったく、どうして固定する側に回っちまったんだか……」
侍女エルフは男のソレを見たことがなかったのか、すでに顔に抵抗の意思はなかった。それどころか……
「や、めてよ……」
興奮した男たちには聞こえないほどの声しか出せない。気が強い所と凛としたところしか見たことがなかったエルフの姫は、侍女エルフの懇願するような声を聴いても、こちらも声が出せなかった。あの下卑た視線が、こちらに向くのが何よりも怖い。
「誰か……助けて……」
誰にも聞こえないはずの救いを求める声。そしていよいよ凌辱が始まってしまうと侍女エルフとエルフの姫が覚悟した瞬間―――
「うべっ」
股間を丸出しにした槍持ちは、横向きに吹っ飛んでいった。
「は?」
マヌケな声を出した、侍女エルフを捕らえていた槍持ちも、同じ方向へと飛んでいった。
「降りてきてそうそう、こんなところに出くわすなんてな。大丈夫? ケガ……はしてるね。これ使って」
背負ったカバンから一本の細長い瓶を取りだし呆然とした侍女エルフへと投げつけるその男の名は篁 ワタル。
先ほど崖をけつドンで落とされた少年である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます