手品

ヒロシ「おい見ろよ、ナウマン象のやろう、趣味の悪い分厚いコートにその身を包んでいやがるぜ」



マルぼん「おい、見たら気の毒だぜ。きっとかわいそうなナウマン象なんだ」



ナウマン象「おう、小僧ども!」



ヒロシ「な、なんだよ」



ナウマン象「こいつを拝みな!」



 コートを勢いよく、前から開げるナウマン象。



ヒロシ「きゃー!」



 ナウマン象、コートの下は生まれたままの姿でした。痴漢!? 誰しもがそう思ったことだろうと思いますが、飛び出したのは男性のシンボルではなく鳩でした。たくさんの白い鳩。



ナウマン象「実は手品でして…」



 なぁんだ、手品だったのかー。緊迫した空気が一変し、アハハハハと笑いが渦巻く微笑町。みんな笑顔。明るい笑顔。

でも悪質ないたずらなので、ナウマン象は警察に連行されていきました。余罪も色々と明るみにでたようです。住みよい町作りは、犯罪の追放から!




 その日以来、なぜかヒロシは憂いを秘めた表情を見せることが増えてきました。



マルぼん「まさかヒロシのやつ、ナウマン象のことを……」




 憂いを秘めたヒロシに脅威を感じたマルぼんは、恐る恐る理由を尋ねてみたのです。ああ、その勇気!



マルぼん「あの、もしかして貴公はナウマン象のことを」



ヒロシ「違いますよ。違います。ほら、この前のナウマン象の黒い手品。コートを開けたら鳩が飛び出してきたヤツ。あれが気になって」



マルぼん「ほほう」



ヒロシ「あれを見ていた子供たちの、輝く瞳が忘れられないのさ。僕もあんなカンジで、人々に憧れる存在になりてえと思いまして」



マルぼん「子供たち、どちらかというと『けがれちまった。これがオトナになるってことなのねん』みたいな表情をしていましたよ」



ヒロシ「僕も『飛び出す手品』をできるようになりたいよ。手品スキルは皆無ですけど」



マルぼん「機密道具『種ナシ手品の種』。この種を飲むと、手品がめっちゃうまくなるの。こいつを飲んだら、本を開けると鳩とかが飛び出す手品とか、口を開いたら虹とかが飛び出したりする手品を使えたりするようになるよ」



ヒロシ「わーい。ごくん」



 さっそく『種ナシ手品の種』を飲むヒロシ。



ヒロシ「効果はどれくらいででるの?」



マルぼん「そのうちでるよ」



ヒロシ「よーし、僕も『飛び出す手品』で民衆をアッと言わせてやるんだ」



 勢いよく玄関の扉を開けて、外へと飛び出すヒロシ。そこにトラック。どーん。救急車。搬送。緊急手術。



医師「内臓がズタズタらしいんで、急いで開腹手術を行います。メス!」



看護師「了解であります!」



 医師がヒロシの腹のあたりにメスをあて、開腹すると。





 ポーン!!





 たくさんの内臓が、勢いよく、ポップコーンみたいに元気に飛び出しました。マルぼんは『種ナシ手品の種』の効果は絶大だと思いました。

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