シリーズ・老い

ヒロシ「友達の老婆が死にたいんだって。練炭とか出してやってよ」



マルぼん「小学生という設定のキミがいかにして老婆と友達になったのか、いかにして

そんなヘビーな相談をされるほどの信頼を得たのか疑問なんだけれど」



ヒロシ「ネットで知り合った女子高生と会う約束をしたら、なぜかその老婆が『私は花も恥らう女子高生です』みたいな顔をして来ていて、いつのまにか朝から晩まで付きまとわれるようになったんだ」



マルぼん「さっさと縁を切りなさい。ムリなら弁護士に相談を」



老婆「そんないけずなことをせず、さっさと練炭をだせ!」



マルぼん「わ、この老婆ですか!?」



老婆「だれも…だれも私を見てくれないのよ…。

息子のサバヒコも…娘のフグミも…民生委員の尾睦さんも!」



マルぼん「なるほど。それで自ら命を絶ちたいってわけか」



マルぼん「歩道橋の上から札束でもバラまけば注目してくれるよ」



老婆「それは経験済みです。でもみんな、地面に這いつくばって金を拾っているので、

注目してくれない…」



ヒロシ「マルぼん。冷たい対応をして僕の部屋で死なれてもいやだし、なんとかしてあげてよ」



マルぼん「それならこの機密道具だね。『注目トマト』。食べればみんなの注目のマトになれるトマトさ」



老婆「こいつを食べたら、みなの注目を浴びれるというワケですな! ではさっそく」



ヒロシ「もがもが」



 ヒロシの口に『注目トマト』を突っ込む老婆。やはり得体のしれないものは食べたくないらしいです。



『注目トマト』の効果を確かめるべく、マルぼんたちは町へと繰り出しました。



ヒロシ「うっ!!」



 ヒロシがうなり声をあげて倒れました。よくあることなのでマルぼんは放置しましたが、

通りがかりの人がヒロシを囲みます。



通行人「この人大丈夫かな?」



通行人B「大丈夫じゃないかも?」



通行人C「『大丈夫』に100円!」



マルぼん「な、みんなに注目されているだろ。『注目トマト』の効果は絶大なのさ」



老婆「ヒロシさん、白目で泡とか噴いてますが。誰も助ける気配がありませんね」



マルぼん「まぁ、注目のマトになるだけだから、仕方ないよ」



 なぜか老婆は『注目トマト』に不服なようで、マルぼんは次の機密道具を出すことになりました。



マルぼん「はい『ちやほ矢』~!!」



ヒロシ「どうせ、その矢で射られたら、みんなにちやはやされる機密道具だろ」



マルぼん「ご名答!! 天才じゃなかろうか天才じゃなかろうか」



老婆「天才天才すごいでちゅねー」



ヒロシ「馬鹿にされてる。僕、絶対バカにされてる!」



マルぼん「その天才さまを射って、さっそく効果を証明してみましょう!」



ビュッ。ブスッ。



ヒロシ「ワ! ケツに矢が刺さった! あ、でも不思議、痛くないよ」



マルぼん「『ちやほ矢』は刺さった部分を一瞬で壊死させて、痛みを……」



ヒロシ「壊死とか、そういう単語は聞きたくない!」



見知らぬ女性「あの…大丈夫ですか? お尻に矢が刺さっていますよ?」



見知らぬ男性「本当だ…待っていてください、すぐに抜いてあげますから」



ヒロシ「え…あ、すいません」



見知らぬ女の子「待っていてくださいね、なにか飲み物とか買ってきます」



見知らぬ男の子「なら俺は食べ物を」



老婆「すごい。さっそくちやほやされ始めていますよ」



マルぼん「『ちやほ矢』の効果は絶大なんだよ」



 数時間後。



ヒロシ「うう…皆さん。やさしさをありがとうございます。僕はもう大丈夫です。

大丈夫ですから」



見知らぬ女性「そんなこといわないで。まだ動かないほうがいいですよ」



ヒロシ「ほんと、大丈夫ですから」



見知らぬ男性「……」



 ヒロシを介抱していた人の1人が、無言で落ちていた大きな石を拾いました。

なにをするんだろうと思っていると、大きな石をヒロシに向かって……ドン! 当然のように、ヒロシは意識を失いました。



見知らぬ女性「ほら、やっぱりダメです。大きなコブができて」



見知らぬ男性「本当だ…待っていてください、冷やすものを持ってきます」



見知らぬ女の子「待っていてくださいね、なにか飲み物とか買ってきます」



見知らぬ男の子「なら俺は食べ物を」



 そして広がる親切の輪。でも、なぜか老婆は『ちやほ矢』に不服なようで、マルぼんは次の機密道具を出すことになりました。



マルぼん「『ちやほ矢』も『注目トマト』もダメとなると、これしかないな。はい、この書類にサインとハンコをどうぞ」



老婆「サインしたら、みんな私を見てくれる?」



マルぼん「YES!」



老婆「それなら…はい。完了です」



サバヒコ「母さん!」



老婆「息子のサバヒコ!」



フグミ「お母様!」



老婆「娘のフグミ!」



ルナちゃん「奥様!」



老婆「近所の宗教施設で、ひがな一日祈りを捧げている近所の女の子!」



通行人たち「おばあさん!」



老婆「どこの馬の骨とも知れない無数の見知らぬ人たち!」



サバヒコ「こんなところにいたら風邪をひくよ。ねえ、そうならないウチに

一緒に旅行へ行こう」



フグミ「それよりも私の家にきて。手料理をごちそうしちゃう!」



ルナちゃん「とても素敵なあつまりがあるのですが」



通行人たち「それ、おばあさんを胴上げだ!」



老婆「みんな、みんな私を見てくれる! 私は1人じゃない!」



ヒロシ「おばあさん嬉しそう。で、あの書類はどういう機密道具よ?」



マルぼん「サインした人に莫大な財産が手に入る機密道具。ただ、その事実が一瞬で

全ての人に知れ渡るという副作用がある」



ヒロシ「なるほど。それで関係のない人たちがたくさんいるんだな。ま、いいじゃない。

お金が理由でも、おばさんはしあわせそうなんだから」



サバヒコ「旅行先は決めてあるんだ。東尋坊と富士の樹海。人気がない…じゃなくて静かないいところだよ」



フグミ「私の料理は薬膳料理なの。口にすると苦くてたまらないけど、体にいい証拠。それが証拠に、食べれば食べるほど体重が落ちて…」



ルナちゃん「それじゃ、私たちには一銭も入らないわ。奥様、足の裏みせて、足の裏!」



ヒロシ「金で幸せは買えるんだなぁ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る