さようなら、マルぼん。さようなら

マルぼん「ヒロシくん、マルぼんは未来の世界へ帰還するよ」



ヒロシ「な、なんだって!? なんだってー!?」



マルぼん「マルぼんは、色々ともう駄目なんだ。未来の世界で静養しなければならなくなった」



ヒロシ「まって、まってくれよ! 行かないでよ、僕に1人にしないでくれよ!」



マルぼん「本当に、そう思っている?」



ヒロシ「当たり前だろ! 僕たちは、親友だ!!」



マルぼん「その言葉を聞きたかった。…これを」



ヒロシ「これは…なにかの苗?」



マルぼん「『カ苗』。強い想いを抱き、この苗を成長させきると、どんな願いもかなう」



ヒロシ「これを育てきれば、マルぼんと再会できるんだね?」



マルぼん「うん」



 その夜、マルぼんは未来の世界へと帰りました。



 母さんも父さんもルナちゃんもナウマン像の金歯も、みんなマルぼんのことを忘れていましたが、僕は忘れていませんでした。マルぼんが帰った日から、僕はずっと、『カ苗』の世話をしています。「はやく大きくなれ」と願いながら。



 そして時は流れて。



 仕事をしていると、電話があった。春子に付き添ってくれているルナちゃんからだった。



「春子さん、陣痛はじまったよ!!」



 その時が、きた。僕が父親になるときが来たのだ。



 上司に事情を説明した後、僕は会社を出た。犯罪スレスレのスピードで車を走らせ、病院へと向かう。



「大沼さん、はやく、分娩室へ!!」



 病院に着くなり、看護師が早口でまくしたててきた。分娩室の場所は知っている。僕は走った。



「あ、う、ヒロシ…」



「春子!!」



 分娩台の上で汗だくになり、苦しそうに喘いでいる春子。



「がんばれよ、がんばれ。僕は、ここにいるから」



 それしか言えなかった。



「う、うう。な、苗は?」



 苗。春子と知り合う前から、僕が育てていた苗のことだ。なんで育てているのは思い出せないけど、とにかく大切に育てていた苗。



「そんなもの、今はどうでもいいだろ」



「で、でも、ヒロシの大切な、苗でしょ」



「そりゃ大切だけど、今は、春子と…子供のほうが大切だ!!」



 必死で覚えたラ・マーズ法を発揮しながら、僕は春子と子供の無事を願った。短いようで長い、長いようで短い、そんな一瞬だった。



「生まれ…生まれました!! 女の子ですよ!!」



「女の子、春子、女の子だっ!!」



 取り上げた我が娘を看護士から受け取る。



 僕に似ているのか、春子に似ているのか。



「さぁ、顔を見せてくれ!!」



「久しぶりだね、ヒロシくん」



 気の弱い人が見たら石化しそうな顔をし、鼻血がでそうなくらいの異臭を放ちながら、娘は……いや、マルぼんは言った。僕は『カ苗』の効果は絶大だと思った。

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