レンタル稼業でおおもうけ

 家に帰ると、マルぼんのヤツが見知らぬ痩せこけた男性と向かい合い、なにやら話しあっていました。感極まったのか、男性はマルぼんの膝にすがりついて泣けるだけ泣き、アタッシュケースと札束を置いて去っていきました。



ヒロシ「今の誰? 衆道の相手かなんか?」



マルぼん「近所に住む末永さんって人。微笑町立陸軍に入隊したいんだけど、死ぬほど胃が悪くて、毎年入隊試験に落ちていたんだって。でも今年、マルぼんの助力でついに合格できたんだ。そのお礼に来てくれたってワケさ」



ヒロシ「へえ。胃を治してあげたの」



マルぼん「いんや、新しい胃を貸してあげたんだ。未来の世界には『カシ』っていう動物がいてね、その『カシ』の肉をダシにつかった汁を飲むと、体のどんな部分も取り外し可能になる。それで胃を用意して、貸してあげたのさ」



ヒロシ「メチャクチャな効果だねえ」



マルぼん「人体切り離しは未来の世界における医学の基本だからね」



ヒロシ「そうなんだ。でも、あきらかに人間じゃないマルぼんの胃でも大丈夫だったの?」



マルぼん「ん。ちゃんと人間の胃を用意したよ。このアタッシュケースに返してもらった胃がはいっている。あ、はやく元に戻した方がいいよ。切り離してから72時間たつと腐るから」



ヒロシ「僕の臓器かよっ。いつの間に! というか、どうやって元に戻すのさ!」



マルぼん「えっと。外科手術で」



ヒロシ「手術!?」



 手術はつつがなく終了し、ヒロシは退院しました。



マルぼん「『カシ』のダシ汁を使った人体レンタルはかなり儲かるんだ。二人で夢をみようぜ。でかい夢をさ」



ヒロシ「いいよもう。胃を元に戻す手術で、軽く地獄を見たし。お金なんていらないよ」



マルぼん「ところで、あの国民的ゲームの新作が出たね」



ヒロシ「!」



マルぼん「君の大好きなドラマ『ヘルプ! おじいちゃんがライオンに喰われた!』のBDBOXもでるし」



ヒロシ「う」



マルぼん「そういえばヒロシ、金歯の家の高価な壺を壊して、多額の借金を背負ったんだよね」



ヒロシ「え」



マルぼん「肝臓をレンタルしたいという話があるんだけど」



ヒロシ「…お願いします」



 こうして僕は、人体レンタル稼業に身を染めていくことになったのでした。



ヒロシ「ところで、どうやって肝臓を取り出すんだい?」



マルぼん「えっと。外科手術で」



ヒロシ「手術!?」



 手術はつつがなく終了し、ヒロシは退院しました。



マルぼん「はい。あ~ん」



ヒロシ「あ~ん」



 マルぼんに、ごはんを食べさせていただくヒロシ。現在、ヒロシは頭部のみの存在です。内蔵を含む頭部以外の体は、全てレンタルしてしまったのです。



ヒロシ「ところでさ。この前肝臓貸したけど、そろそろ72時間じゃない?」



マルぼん「その肝臓をかした相手の人。いまでは元気に暮らしているんだって。結婚とかしてさ、幸せなんだって。その幸せが永遠に続くといいよね」



ヒロシ「売ったのけ、僕の肝臓」



マルぼん「胃をレンタルした人は、いまでは大食いチャンピオンだって。素敵だよね。その素敵さが永遠に続くといいよね」



ヒロシ「売ったのけ、僕の胃も」



マルぼん「自己を犠牲にしても他人の幸せを願う。鬼のように素晴らしい人生だよね。かっこいいよね。ルナちゃんとかも惚れちゃうかもね。人の不幸を悲しみ、人の幸せを喜べる人って最高やね」



ヒロシ「僕の体、全部売り払ったのなー!?」



マルぼん「心配ご無用。たとえ生身の体がなくなっても、素敵な機械の体がある。ほら、このカタログみてみな」



ヒロシ「えっと。『サンキュー社のメカボディ』だって。ワ! 空も飛べるし、変形だってできるんだ。生身の体よりはるかにいいじゃん」



マルぼん「素敵だろ。夢心地だろ。このメカボディが、いまならこのお値段っ」



ヒロシ「普通に高価やん。さすがに手が出ないな、このお値段。僕の体を売った金はどうしたんだよ。その金でなんとかならないの」



マルぼん「そんなことより、こちら加藤さん」



加藤さん「加藤っス」



マルぼん「加藤さんは、故あって社会から身を隠さないといけない立場なんだ。そこで、新しい顔が必要」



ヒロシ「唯一残された僕の頭部まで売るの?」



マルぼん「脳があれば、いけそうな雰囲気だし…ほら『メカボディに脳髄だけ入ってる』って、忍者亀が活躍するアメコミみたいでかっこいいじゃん。サワキチャーン。はい、決定。決定!」



マルぼん「ついに届いたよ、機械の体。唯一残った脳を所定の位置にしまうことで、生身の体と大差ない動きができるんだ」



ヒロシ「スゴイヨ、スゴイ。オニノヨウニウゴキヤスイヨ」



マルぼん「しゃべり方がアレだけど、そんなのたいしたことじゃないよね。問題は、燃料だ」



ヒロシ「ネンリョウ?」



マルぼん「この機械の体で動くには、特殊な燃料が必要なのさ。それが高くて高くて」



科学者風の男「こんにちは」



マルぼん「どちら様?」



科学者風の男「某国の者ですが、こちらのヒロシくんが脳だけで生きておられると聞いて。噂によると、体の好きな部分を売っていただけるとか。色々研究したいので、お譲り願いませんか、脳」



マルぼん「そいつはナイス。これで燃料が買えるぞ。脳は、電子頭脳で補えばいいや」



それから。



ヒロシ「ピー。ネンリョウガキレカカッテイマス。ホキュウヲシテクダサイ。ピー。ネンリョウガキレカカッテイマス。ホキュウヲシテクダサイ」



マルぼん「ああ、ヒロシくん。ご飯だね。どう、おいしい?」



ヒロシ「エネルギージュウテンカンリョウ。エネルギージュウテンカンリョウ」



マルぼん「おしかったんだね。よかったよかった。ところでヒロシくん、最近は学校で大活躍らしいじゃない。スポーツも勉強も、人間とは思えない域に達しているとか」



ヒロシ「メールガトドイテオリマス」



マルぼん「マルぼんは、ヒロシくんに人生の勝利者の気分を味わってほしかったんだ。ちょっと無理したけど、機械の体にしてよかったよね。うんうん」



ヒロシ「メールガトドイテオリマス」

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