宇宙船地球号、ヒロシを乗せて。

金歯「正月休みは、終始、外国で過ごしていたのでおじゃる。外国で酒池肉林。天国でおじゃった」



ヒロシ「べ、べつにうらやましくなんか、ないんだから……!」



 しかし言葉とは裏腹な本音はヒロシの表情に表れていたのです。「うらやましいの」と。「愛してほしいの」と。



ヒロシ「うわーん、マルぼん、この大沼ヒロシも外国で過ごしたいよ!」



マルぼん「お金を貯めるなりしてちょっとは努力しろや。この、ゆとり教育が生み出した悲しきモンスター!」



ヒロシ「僕は努力とまずい飯は嫌いなの!」



マルぼん「金ナシで外国で過ごせる機密道具ねえ。たしかあったようななかったような。ちょっと待ってて」



ヒロシ「早くだしてよー」



 と、そのとき。屈強な体の外国人男性がヒロシの部屋にはいってきました。



ヒロシ「ど、どちらさまで」



外国人「ミーは大沼ヒロシデス」



ママさん「こちら、ボブさん。『どうしても日本の男子小学生になりたい』とおっしゃるの。長年の夢だったらしいの。かわいそうだから、ヒロくんの国籍を売ってあげたのよ」



旧ヒロシ「えー!」



新ヒロシ「トイウワケデ、ココハミーノ部屋ナノデ、トットト出テイケヤ」



マルぼん「国籍がなくなったということは、君はもう日本人じゃない。つまり君にとって日本は外国だ。やったな、外国に過ごすという夢がかなったよ」



旧ヒロシ「なるほど。つまり僕は国とか人種とかそういうものを超越した、本当の意味の地球人になったというわけだね。よし、小さな宇宙船地球号、出発だっ」



ママさん「よくわからないけど、ちがうと思うなぁ、お母さんは」



警察官「不法滞在している国籍なしの輩がいると聞いて、駆けつけました!」



新ヒロシ「オマワリサン、アイツデス!!」



旧ヒロシ「ひょえー!!」



 その後、ヒロシは警察官に追われて逃走。数年後、マルぼんは、所属しているコーラスグループが定期的に行っている慰安コンサートで訪れた某収容所でヒロシらしき人を見かけました。元気そうでした。元気があればなんでもできる。だからあなたも生き抜いて。おしまい。


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