ヒロシ、仏像を父と呼ぶ

ママさん「この人が新しいパパよ」



マルぼん「人って…これ、単なる仏像じゃないですか! ママさん、人と仏像は夫婦になれませぬ」



ママさん「なら、2人で死ぬ」



マルぼん「ちょ、ちょっと待って! ヒロシ! ヒロシ! ママさんを止めて! って、あいつ、今外出しているんだった!」



 マルぼんはいそいで、ヒロシの携帯電話に連絡をいれました。すると、ヒロシの机の引き出しの中から着メロが。あの野郎、携帯電話を携帯していなかったのです。



ママさん「生まれ変わったら、一緒になろうね」



 部屋に火を放ち、仏像とともに炎のなかに消えるママさん。炎の中からは笑い声が聞こえましたが、それはどこかせつなかったのでした。



マルぼん「貴様が携帯電話を携帯しないから、町の人々が今後一切口をつぐんでしまうような大惨事になっちまっただろうが!」



ヒロシ「僕は、携帯電話を携帯しない人間として、僕らしく生きて僕らしく老いて僕らしく死ぬと心に誓っているんだ」



 あやしげな理想を掲げられても、携帯電話を携帯してくれないと不便でしょうがありません。マルぼんは「携帯電話につけると特殊な波動を発し、どんな人でも肌身離さず、携帯電話を常に携帯するようになるストラップ」という機密道具を取り寄せて、ヒロシの携帯電話につけました。



ヒロシ「ひぃ!?」



マルぼん「どうした」



ヒロシ「今、今携帯電話が、勝手に作動したんだ。勝手にメールを送ろうとした…」



マルぼん「気のせいだよ」



ヒロシ「そんなわけあるか。間違いなく、勝手に動いた。『死ね』といった悪口とか、相手の信じる宗教をこけおどすような文句とかを勝手に打ってメールをつくり、片っ端から送信しようとしていた! ぼぼぼぼぼ僕の交友関係をズタズタにするつもりなんだ。おのれ、おのれ、邪悪な携帯電話め、破壊してくれる。は、だめだ。破壊したら、あやしい電波を撒き散らすに違いないぞ。電波はやめろ電波はやめろ電波はやめろ。そうだ、監視だ、監視してやる。監視して、内部に潜む邪悪な存在を突き止めてやる! やる! やるー!! 電波はやめろ電波はやめろ電波はやめろ。電波はやめろ電波はやめろ電波はやめろ。電波はやめろ電波はやめろ電波はやめろ。電波はやめろ電波はやめろ電波はやめろ。」



 こうしてヒロシは、メシ時も風呂時もトイレ時も肌身離さず携帯電話を携帯するようになりました。もちろん、病室でも。 マルぼんは「携帯電話につけると特殊な波動を発し、どんな人でも肌身離さず、携帯電話を常に携帯するようになるストラップ」の効果は絶大だと思いました。

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